次世代型太陽電池との呼び声高いペロブスカイト太陽電池について、多くの企業が実用化に向けて動きを加速させています。ペロブスカイト太陽電池は、有機化合物・ヨウ素・鉛などを主な原材料とし、日本で発明された技術です。従来のソーラーパネルでは設置が難しかった場所にも取り付けることが可能であることから、日本政府も将来的に大きな期待を寄せているのです。
これまで、長きにわたり研究開発が行われてきましたが、いよいよ本格的な実用化が近づいてきました。今回の記事では、ペロブスカイト太陽電池の最新動向を詳しく追っていきたいと思います。
経産省はペロブスカイト型の電池に関して、買取優遇を発表
2024年3月、経済産業省は固定価格買取制度(FIT制度)において、ペロブスカイト太陽電池を設置する発電事業を対象に、通常の太陽光発電よりも買取価格を高く設定する方針を公表しました。具体的には、1kWhあたり10円以上で調整する見込みです。一般的な太陽光パネルと価格差を設けることで、新技術への民間投資を促します。
同省は、ペロブスカイト太陽電池を次世代型の再生可能エネルギーとして社会への普及を目指し、研究開発や事業化に尽力する企業をサポートしてきました。その背景には、一体どんな経緯があるのでしょうか。
主な理由の一つに挙げられるのは、現在市場で流通しているシリコン製の太陽光パネルは、約8割が中国で生産された製品です。日本でも中国製のパネルが多数導入されていますが、中国依存率を低下させ、国内生産比率を向上したいわけです。また、CIS型薄膜太陽電池の化合物系の太陽光パネルには、インジウムやガリウムといったレアメタルが使用されています。国内では、レアメタルを産出することは難しく、これまた中国など一部の国に依存せざるを得ません。
対照的に、ペロブスカイト太陽電池の主要原料の1つであるヨウ素は、千葉県で産出できる貴重な資源です。こうした強みを活かすべく、2023年7月に「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略(GX推進戦略)」を閣議決定しました。その中で、ペロブスカイト太陽電池の早期の社会実装を掲げ、2025年からの事業化を目指しています。
事業化の一例として、第一生命保険や東京電力パワーグリッドなどが東京都千代田区に建設する高層ビルの壁面に、ペロブスカイト太陽電池を設置する計画を発表しました。想定通り実現すれば、出力容量は1MWに達します。高層ビル自体が大規模な発電所となるのです。
KDDIもペロブスカイト太陽電池に関する大規模な実験を開始
通信大手3社の一角であるKDDIは、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて、大きな動きを見せています。KDDI株式会社、株式会社KDDI総合研究所、株式会社エネコートテクノロジーズの3社が2024年2月、ペロブスカイト太陽電池などを搭載したサステナブル基地局の実証実験を開始しました。今回選ばれた群馬県大泉町の基地局は、KDDIとauリニューアブルエナジーが「GX推進による自律分散型社会の実現に向けた連携協定」を締結し、様々な条件を考慮した上で選定されたそうです。
ペロブスカイト太陽電池で発電した電力で、通信端末用の基地局を運用する実証実験は国内初となります。すでに2023年から、関東地区の一部の基地局にて、太陽光パネルを敷地内に設置し、日中の使用電力をまかなうサステナブル基地局を開始していました。このような太陽光パネルを設置した基地局では、1日あたりの使用電力量の約3割以上を供給できるという結果が出ています。
しかしながら、敷地内の面積が狭い基地局だと、太陽光パネルを並べて発電するという方法では電力供給量が不十分です。KDDIによれば、同社の基地局の大半は、電柱型やビル設置型であり、ペロブスカイト太陽電池の実証実験には大きな価値があるといいます。
私たちの日常生活に欠かせないスマートフォンなどの通信技術を支える役割を果たすKDDIですが、事業活動を通じて年間約94万トンのCO2を排出していることは、解決すべき重大な課題と捉えていました。特に、基地局に関連する電力使用量は、同社全体の電力使用量の約5割を占めるといい、CO2排出量の削減を達成するために基地局の省電力化は絶対にクリアすべき課題です。
現在進行中の実証実験では、ペロブスカイト太陽電池の“薄い”、“軽い”、“曲げやすい”という特徴を活かすため、電柱の南西と南東方向に突起したアルミポールにシート状の太陽電池を巻き付けて設置しています。なお、アルミポール自体の重さは4kg程度です。普通の大人が持ち歩くことができ、設置工程もさほど難しくないとのことです。
ペロブスカイト太陽電池の関連企業はどこ?
冒頭で触れた通り、ペロブスカイト太陽電池は日本人の大学教授によって発明され、日本が世界をリードする分野です。この章では、国内で実証実験や研究開発を牽引する企業をいくつか紹介していきましょう。
●積水化学工業
同社は、主にフィルム型のペロブスカイト太陽電池に強みがあり、10年の耐用年数を実現したことで注目を集めています。さらなる進化を目指し、2025年までに20年の耐用年数を実現する目標です。幾多のメリットがあるペロブスカイト太陽電池ですが、紫外線や湿気に弱いというデメリットも存在します。その課題を克服するため、積水化学工業は液晶向けの封止材の技術を応用。液体や気体によるダメージを抑える加工に施すことに成功し、耐用年数を伸ばしているわけです。
積水化学工業は、製品開発だけでなく、実証実験にも積極的に取り組んでいます。NTTデータと共同で、フィルム型のペロブスカイト太陽電池をビルの外壁に設置する実験のほか、JERAと共同で火力発電所に導入する実験も行っています。
●カネカ
2022年にフィルム型ペロブスカイト太陽電池で約20%という、当時最高水準の変換効率を実現したことで話題を集めたのが化学メーカー大手のカネカです。高い技術力などを理由に、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「グリーンイノベーション基金事業」におけるペロブスカイト太陽電池の開発助成金を交付されることが決定しました。約20%の変換効率に成功したのは、10平方cmという小さいサイズの太陽電池でした。実用化にあたっては、数倍の面積でも同水準を可能にすることを求められるでしょう。今後は、建材一体型や壁面設置型を中核として、2026年頃から実用化を目指していくようです。
●伊勢化学工業
何度かお伝えしている通り、ペロブスカイト太陽電池の原料にはヨウ素が使用されています。国内におけるヨウ素製造販売の大手企業が、伊勢化学工業です。供給先はおよそ20ヶ国にのぼり、全世界における同社の生産量シェアは約15%です。屈指のヨウ素サプライヤーとして、確かな技術力と品質を誇り、ペロブスカイト太陽電池の普及促進に欠かせません。また、K&Oエナジーグループも、天然ガス事業に次ぐ第二の事業としてヨウ素の製造販売を行っている企業です。
まとめ
当初は次世代太陽光発電の一種として、ペロブスカイト太陽電池は2020年代後半の実証が予測されていました。しかし、カーボンニュートラルの目標達成、及びエネルギー安全保障の重要性を各国が意識を強くしたことも相まって、早急に実用化すべく官民連携で取り組んでいます。
ペロブスカイト太陽電池が建物や基地局など、従来の太陽光パネルでは設置が難しかった場所にも次々と導入されれば、再生可能エネルギーによる出力容量は一気に増大します。今や、これを無くしてカーボンニュートラルを達成することは有り得ない、といっても過言ではありません。実証実験を推進する大手企業からのさらなる朗報を楽しみですね。