コラム

電気自動車は高いって本当?高い理由や実情を調べてみた

電気自動車の普及の大きな妨げとなっていると言われているのが価格の高さです。補助金などでカバーすることはできますが、価格がネックになって購入をためらっているという方も多いようです。長い目で見れば、環境問題の絡みもあり、世界中でガソリン車から電気自動車への切り替えが進んでいくと考えられています。そのためには現在よりも価格が安くなるかどうかが重要なポイントとなってくるでしょう。今後、安くなる余地はあるのでしょうか。
本記事では、そんな電気自動車における価格の事情、今後の展開について解説していきます。

電気自動車が普及しない理由は価格の高さというのは本当?

2023年における日本国内のEV(電気自動車)の普及率は約1.66%です。「次世代の自動車」などと言われて注目を集めているわりには、ずいぶんと少ない数字と感じる方がほとんどではないでしょうか。
どうして電気自動車の普及が進んでいないのでしょうか。充電ステーションの数が少なく、移動中に充電できるか不安といった理由と並んで、大きな理由となっているのが価格の高さです。かつて日本車が高性能かつ手頃な価格帯で世界中で高い評判を得たように、普及の際には「手が届きやすい価格」であることが非常に重要です。車に限らず、馴染のないものに手を出そうとした場合、馴染みのあるものよりも安い方が手を出しやすいというのが原則です。
にもかかわらず、電気自動車は同じ車格のガソリン車と比較して1.5倍くらいの価格帯となっています。ガソリン車でも充分便利なのに、わざわざ高いお金を出して電気自動車を購入する理由が見いだせない、というのが普及しない最大の理由と言っても過言ではないでしょう。

では、どうして電気自動車の価格は高いのでしょうか。電気自動車といっても、基本的な部分は自動車です。ガソリン車とそれほど大きな価格差は出ないように思えます。両者の価格差は、電気自動車にあってガソリン車にはない部分、ずばり充電を行うリチウムバッテリーにあります。
このバッテリーは名前の通り、リチウムを原材料としてしているものです。このレアメタルは希少価値があるうえに、まだまだ電気自動車のバッテリーそのものの生産コストも高いことから、電気自動車の価格に反映されてしまっているのです。
レアメタルは国内ではあまり生産できず、中国をはじめとした海外からの輸入に頼っている状況です。となると、安く調達するのも難しいですし、海外の生産事情や市場動向の影響を受けやすくなります。そのため、価格を下げるのが難しくなっているのです。

電気自動車はいつ安くなる?

バッテリーの価格が高いことが電気自動車の価格を高くしている直接的な理由となっています。となると、「価格が高いというデメリットを解消できるのか?」という点が今後の普及における重要なテーマとなってくるでしょう。簡単に言ってしまえば「いつ安くなるのか?」です。
この点に関しては朗報もあります。2024年3月に、調査会社のガートナーは「電気自動車の生産コストが2027年にはガソリン車よりも安くなる」という調査結果を発表しています。生産コストが安くなれば、当然車の価格も安くなります。2027年はそれほど遠い先ではありません。数年後には現在よりもずっと安く、電気自動車を購入できる可能性があるわけです。

さらに、2023年には電気自動車で一躍世界屈指の自動車メーカーに躍り出たアメリカのテスラ社が、「生産体制に大変革を起こして電気自動車の製造コストを半分にする」という見解を投資者向けの説明で行って話題になりました。どこまで実現するかはともかく、それなりの成算があっての説明と思われます。半分まではいかないにしても、従来の製造コストを大幅に下げることができる可能性が高いと見てよいでしょう。

こうした状況から見ても、早ければ5年以内、具体的には2030年くらいには現在よりもかなり安い価格で電気自動車が購入できるようになる可能性がある、と想定できるのではないでしょうか。
今後、電気自動車が普及して生産規模がより大きくなれば、製造コストが安くなっていくことが予想されます。大量生産すればするほど製造コストが安くなる「製造業の大原則」がここでも適用されるわけです。つまり、電気自動車の普及の妨げになっている価格の高さは、電気自動車が普及すればするほど解消されやすくなる、ということになります。補助金制度などで電気自動車の普及が促されている背景にはこうした事情もあるのでしょう。

先述したバッテリーの原材料となるリチウム(レアメタル)の確保の問題ですが、現在レアメタルを使用しないタイプのバッテリーの開発も進んでいます。これが実現すれば、バッテリーの原材料の調達コストも下げることが可能です。将来的な電気自動車の価格の低下に寄与することになるでしょう。

日本・世界両方の電気自動車の将来予測

2021年に、当時の日本の首相が「2035年までに新車販売における電気自動車の比率を100%にする」との目標を掲げました。現在ではさすがにこれは現実味に乏しいと考えられていますが、「2050年までには電気自動車の割合を100%にする」との目標も掲げられています。これは、日本が長期目標として掲げている「自動車1台の1kmあたりの温室効果ガス排出量を2010年と比較して80%削減する」目標に合わせたもので、2030年までに20〜30%程度の普及を見込んでいます。

冒頭で挙げたように、2023年時点での普及率が1.66%であることを考えれば、2030年までに30%に達することさえも「本当に実現するのか?」と少々疑わしく感じてしまう方も多いはずです。しかし、「2027年には生産コストがガソリン車を下回る」との見解もあるので、決して夢物語ではなく、充分実現可能な数字なのかもしれません。いずれにせよ、実現するためには価格が安くなることが必須になってきます。今後どのような展開していくのか、注目していきたいところです。

では、海外の状況はどうでしょうか?2023年のアメリカの新車販売台数に占める電気自動車の割合は約7.6%で、2021年の3.2%と比較して、倍以上の数字となっています。「アメリカでは電気自動車の普及が下火になっている」との意見もありますが、日本よりもずっと進んでいる状況が見て取れます。それでもまだ8%以下に留まっている点に、価格の高さが普及のネックになっている様子がうかがえますが、先述したテスラ社の取り組みなどもあって、今後普及が加速していくことも期待できるでしょう。

国際エネルギー機関(IEA)が発表した電気自動車の将来予測のデータによると、2030年に世界における電気自動車の総台数は2億5000万台、そして2035年には5億2500万台となるとされています。2023年のアメリカの電気自動車の販売台数が約119万台からすると、いかにこれらの数字が大きなものかがわかるでしょう。また、2035年の予測では、実際に使用される自動車の総数の4分の1が電気自動車になると見られています。日本が目標とする「2030年に20〜30%」という数字は、この点から見ても決して現実不可能ではないということになるのでしょう。
そして、同じIEAによる予測では、2030年に電気自動車用の充電バッテリーの数が1500万台を超えるとあります。生産台数が増えればコストも安くなることを考えると、やはり今後5〜6年くらいの間に電気自動車の価格の低下が期待できそうです。

まとめ

現時点での電気自動車の価格が高い理由は、生産コストの高さ、とりわけリチウムバッテリーの製造コストの高さです。これが今後どう改善されていくか、2030年くらいまでが重要なターニングポイントとなってくるようです。そのため、電気自動車の購入を検討している場合には、補助金が利用できる間に購入するか、価格が安くなるのを待って購入するかの判断も必要になってくるでしょう。今後の価格の低下と電気自動車の普及率アップに期待したいところです。