コラム

燃料電池車(燃料電池自動車)はどんな車?種類や将来性について解説

燃料電池自動車とは

皆さんは、エコカーの一種とされる“燃料電池自動車”という名称を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。2014年から燃料電池自動車の一般販売が開始され、エコカーの中で最も環境に優しい車だと言われています。とはいえ、まだまだ身近で見掛ける機会は多くないのが現状かもしれません。
この記事では、燃料電池自動車の種類やメリットおよびデメリットを説明し、どうしてあまり普及していないのか原因を考察していきます。

燃料電池車の種類について解説

そもそも燃料電池自動車とは、水素と酸素の化学反応によって発電する燃料電池を搭載し、電気でモーターを動かして走る自動車です。従来の車はガソリンエンジンなどの内燃機関を備えており、ガソリンスタンドで給油しますよね。対して燃料電池自動車は、水素ステーションで水素を補給することが必要です。
化学反応に必要な酸素は、空気中から取り込むことが可能ですが、水素はそのようなことはできません。一般的に、燃料電池自動車には水素を補給する仕組みによって、2つの種類に区別されます。

一つは、メタノールや天然ガスなど水素を多く含有する燃料を補給して車載改質器で水素を製造する「車上改質型」です。水素は地球上で最も軽く、体積が非常に大きい気体です。効率よく貯蔵・輸送するのが難しいことから、車上にて水素を生成する仕組みが考案されました。
もう一つは、「直接水素型」という、水素ステーションで直接水素を補給するタイプです。エネルギー効率や環境への負荷という観点からみると、直接水素型の方が望ましいといえるでしょう。ただし、後述するように日本国内にはまだまだ水素ステーションが少ないのが現状です。

燃料電池車のメリット、デメリットについて

燃料電池自動車には、どのような特徴があるのでしょうか。メリットとデメリットを順を追って紹介していきます。まずメリットは主に次の5つです。

●有害なガスを排出せず環境に優しい
走行中に温室効果ガスや有害物質などを排出しないのが最大の魅力です。地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)、大気汚染の原因になる窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)をまったく出しません。排出するのは基本的に水(水蒸気)のみです。

●騒音が少ない
燃料電池は電気でモーターを動かして走行するため騒音がとても少ないです。たとえば閑静な住宅街などを走行する際、周辺住民への騒音対策にもなります。

●充電が不要
同じくエコカーの一種である電気自動車(EV)と比較して、水素の補給時間は3分程度です。長時間の充電が必要な電気自動車とは大きく異なります。1回の充填による走行距離はおよそ650~850km。将来はガソリン車と同水準になると想定されています。

●エネルギー効率が高い
ガソリン内燃機関自動車のエネルギー効率は大体15~20%ですが、燃料電池自動車は2倍程度の30%以上とエネルギー効率が高いです。低速域だとさらに効率が下がるのに反して、燃料電池車は高効率を維持できます。

●多様なエネルギーを利用可能
水素は、天然ガスやエタノールなどを改質して得ることも可能です。石油以外の多様な燃料を使うだけでなく、再生可能エネルギーを利用して水を電気分解するなど、環境への負荷が小さい方法で水素を製造することもできます。

次にデメリットですが、主に下記の2つが挙げられます。

●水素ステーションが少ない
燃料電池自動車にエネルギーを充填するには水素ステーションが欠かせません。いってみれば、水素ステーションは従来車にとってのガソリンスタンドのような存在です。水素ステーションが近くにないと水素補給ができませんから、不便に感じるでしょう。

●車両価格が高い
燃料電池自動車の新車価格は、700万円以上とかなり高額です。国の補助金を活用しても500万円以上になってしまいます。新しい技術が採用されているので仕方ないですが、ハードルが高いと言わざるを得ません。

燃料電池車がなかなか普及しない理由

燃料電池自動車の普及台数は、全自動車における割合ではまだごく僅かです。普及が進まない大きな理由として、水素ステーションの数が非常に少ないことが指摘されています。2023年時点で、水素ステーションの数は全国で167ヵ所です。首都圏54ヵ所、中京圏51ヵ所、関西圏20ヵ所、九州圏15ヵ所、その他地域27ヵ所と、四大都市圏に集中しており、地方だとほとんど見掛けることが無いはずです。

その数は少しずつ増加傾向にあるものの、ガソリンスタンドは全国に約29,000ヵ所も存在します。EV自動車用のEV充電器でさえ、設置件数が20,000万ヵ所を突破しており、いかに水素ステーションが少ないかお分かりでしょう。
水素ステーションで燃料を充填できなければ燃料電池自動車は動かないわけですから、特に地方在住者は困りますよね。政府は2030年までに1000ヵ所以上を整備する目標を掲げており、増加のスピードを速めていきます。

もう一つ、水素燃料の製造コストも普及の足かせになっています。製造コストが高いままですと、燃料電池自動車の車両価格や維持費が低下しません。前項で触れた通り、現時点で価格はおよそ700万円前後です。大衆に普及するには、ガソリン車に近い水準まで安くならないと、購入を決断する方が増えていかないと思われます。

2022年時点での水素の製造コストは、1Nm3(ノルマルリューベ)あたり100円程度でした。政府は将来的に、12円/Nm3を目指す方針を計画しています。
水素ステーションでの水素販売価格は約1,200円/kg程度です。一例としてトヨタの新型MIRAIの水素タンク容量が5.6kgなので、同車の水素タンクを満タンにするには約6,700円かかります。そう聞くと、ガソリン代より高いという印象を受けると思います。水素を安く大量に製造して、水素ステーションを全国に整備するなど、燃料電池自動車の普及には大きな課題があるのです。

まとめ

燃料電池自動車は、政府が普及を推進している環境に優しいエコカーであり、二酸化炭素など有害物質を排出しないところが魅力です。水素と酸素の化学反応によって電気を発生させてモーターを動かす仕組みなので、騒音も少なく、私たちの生活にも良い影響をもたらします。しかしながら、次世代エネルギーの水素を活用するため、なにかとコストが高く、肝心の水素ステーションも設置箇所が少ないです。今はごく一部の方だけが所有する燃料電池自動車ですが、クリアすべき課題を乗り越えていくと、普及台数が一気に増えていくかもしれません。