コラム

新エネルギーの1つであるアンモニアってどんな気体?アンモニアエネルギーについて解説

新エネルギーのアンモニア

アンモニアは分子式NH3で表される無機化合物で、独特の強い刺激臭を持つ気体です。学校の授業で、人体に有害な物質だと習った記憶があるのではないでしょうか。そんなアンモニアを、次世代エネルギーとして活用する動きが広まっています。人間にとって有毒な物質を、発電方法に用いるなんて、イメージが湧きづらいかもしれません。
この記事では、アンモニアを使用してエネルギーを生み出す仕組みや、メリット・デメリットについて説明します。

アンモニア混焼とは?詳しく解説

国内の年間発電量のうち、火力発電が占める割合はおよそ7割です。火力発電では、石炭や天然ガスを燃料として用いるため、大量の二酸化炭素(CO2)を排出します。そこで、化石燃料をアンモニアに置き換えて、電気を作り出す方法が研究されているのです。
アンモニアで発電させる場合、混焼発電と専焼発電という2種類が存在します。「混焼」とは、ガスタービン発電や石炭火力発電の燃料にアンモニアを混ぜて燃焼させる方式です。ガスタービン発電は、液化天然ガス(LNG)などを燃焼した際に発生するガスでタービンを回し、電気を発生させます。LNGなどの燃料にアンモニアを30%ほど混ぜて発電する仕組みを、日本の科学者が開発しました。
そして、石炭火力発電のボイラーにアンモニアを混ぜて燃焼させ発電する方法も、研究開発が進んでいます。石炭は燃焼時のCO2排出量が多いため、CO2排出量を削減しつつ発電量を維持することを目指しています。

「専焼」とは、100%アンモニアだけを燃料にして発電する方式です。もし実現できれば、CO2排出量をほぼゼロに抑えることが可能となります。
2024年現在は、石炭火力発電にアンモニアを20%混焼する実証実験を行っている段階です。たかが20%といえでも、影響力は絶大です。もし大手電力会社が保有する石炭火力発電所すべてで20%混焼を実現すると、CO2排出削減量は約4000万トンと想定されています。将来的に50%混焼が可能になれば、削減量は約1億トンに達します。
日本の二酸化炭素排出量は約10億6,400万トン(※2021年度)であり、その内1億トンを削減できれば、相当なインパクトですよね。今後、混焼率を向上させる技術を確立することが、アンモニア混焼を普及させるカギとなります。

アンモニアのメリット、デメリットについて解説

では、アンモニアをエネルギーとして用いることにおいて、どんなメリットやデメリットがあるのか、順を追って見ていきましょう。まずメリットに挙げられるのは、以下の4点です。

●CO2を排出しない
●水素と比べて運搬や貯蔵が容易
●発電コストが安い
●既存の設備を有効活用できる

アンモニアは、燃焼時にCO₂を排出しません。よって、CO2排出量が多いという火力発電のデメリットを相殺するポテンシャルを持っています。また、アンモニアはこれまでも肥料などで多用されており、生産・運搬・貯蔵などの技術が確立されたものです。あまりコストをかけずにエネルギーに転用することができます。
同じく次世代エネルギーとして期待が高い水素と比較すると、発電コストは約4分の1です。アンモニアは燃えにくいため、専用のバーナーが必要となりますが、混焼に必要なのはごく一部の機器の変更だけです。既存の火力発電所を活用できるので、設備投資費用がさほどかからないのも魅力的です。

次に、デメリットに挙げられるのは、以下の3点です。

●燃焼時に窒素酸化物を排出する
●製造時にはCO2が発生する
●安定供給へ向けた製造基盤の構築

アンモニアは窒素を含むため、発電する際にNOx(窒素酸化物)が排出されます。光化学スモッグや酸性雨の原因になるといわれ、窒素酸化物をほとんど出さない燃焼器が必要となります。
燃焼時にCO2を出さないアンモニアですが、化石燃料を用いて製造する過程ではCO2を排出してしまいます。水素と窒素を触媒にして高温・高圧下で反応させる方式でも、やはりCO2を排出します。対策として、発生したCO2の回収や再利用が必須です。
仮に国内の主な石炭火力発電所すべてでアンモニア20%混焼を行う場合、年間約2,000万トンのアンモニアが必要です。実は、2021年時点のアンモニア国内生産量は100万トンに満たない水準です。消費量が増加すると、すぐに不足すると想定され、価格高騰といった問題にも繋がります。外国でもアンモニアの需要は高いため、輸入を増やすことも難しい状況なのです。

アンモニア燃料に関する企業を徹底紹介

アンモニアを製造する企業としては、日産化学、UBE(旧:宇部興産)、三井化学、レゾナック(旧:昭和電工)などが挙げられます。東京電力と中部電力が出資する発電会社、株式会社JERAは「JERAゼロエミッション2050」を公表しました。それによると、2030年までにアンモニア混焼の本格運用を開始し、2030年代前半には20%混焼を実用化する計画です。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とJERA、IHIは協同で、碧南火力発電所において2024年4月に燃料アンモニア転換実証試験を開始しました。アンモニアの安定供給を構築するために発足した「燃料アンモニア導入官民協議会」には、三菱商事、丸紅、IHI、三菱重工業、日本郵船、電源開発、日揮HDが参加しています。三菱重工業の子会社は、アンモニア100%専焼のガスタービンの開発を進行中です。早ければ2025年以降に実用化されるとのことです。
他にも、アンモニアから水素を製造する技術に関して、住友化学や木村化工機が研究開発を行っています。

まとめ

アンモニアをエネルギー源とする発電は、小規模な実験段階では良い結果を示しているものの、大規模な発電所で実用化するには、解決すべき問題が残されている状態です。これほど期待を集める理由は、燃焼時にCO2を排出しない性質ゆえ、化石燃料を消費せずクリーンな電気を作り出せるからです。国内で生産量を増やすことが出来れば、一気にアンモニア混焼の普及が進行する可能性は十分あります。次世代エネルギーの本命といわれる水素より、アンモニアの方がいち早く日本のエネルギー業界に変革を起こす立役者になるかもしれません。