昨今は、企業がカーボンニュートラルや環境対策に取り組むのがごく当たり前の社会となりました。特に大手企業は、具体的にどのような活動を行っているか、自社がどのぐらい環境負荷を低減しているか、「統合報告書」などで毎年公表しています。SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が浸透するに伴って、環境対策をしっかり実施する企業を評価すべき、という風潮が強くなっていますよね。
ところが、そういった企業が一転して非難に晒される事態も起きているのです。今回は、企業が陥るかもしれない「グリーンウォッシュ」という問題について、基本的な内容から具体例も交えて、解説していきましょう。
そもそもグリーンウォッシュとは?
グリーンウォッシュとは、表向きは環境に配慮していると謳っている企業や商品について、実際には不十分であり誤った印象を与える行為をいいます。英語で「ごまかし、取り繕い」を意味するWhitewashingと、「環境に優しい」という意味合いのGreenを組み合わせたもので、1980年代にアメリカの環境活動家が提唱した造語です。「偽装グリーン」と呼ばれることもあります。
グリーンウォッシュは、主に以下のポイントに注意すべきと言われています。
①曖昧な言葉
②環境に汚染をしているのにグリーン商品を売る企業
③暗示的な写真や図の使用
④的外れな主張
⑤誇大主張
⑥信用できない表現
⑦意味不明な表現
⑧捏造
⑨証拠がない
それでは典型的な例を紹介しましょう。いずれもグリーンウォッシュに該当する恐れがあるので注意が必要です。
①まったくの嘘、あるいはほんの一部にも関わらず、環境へ強く配慮しているように見せかける
たとえば、自社商品を紹介する際に“エコフレンドリー”といった言葉を用いて、特段の根拠無くいかにも環境保全を意識しているように思わせる行為です。商品のPR活動で、関連性がない写真を載せてグリーンなイメージを訴えている場合も疑いの目を持つべきでしょう。悪質な場合だと、実際の取り組み以上の活動実績を堂々と公表するところもあります。
②都合の悪い事実は隠して、都合の良い部分だけを強調する
持続可能性の高い商品だと宣伝する反面、製造過程で海や河川を汚染していたり、主力事業で二酸化炭素を大量に排出しているのに規模の小さい新規事業の環境配慮ばかりを強調するケースです。環境に配慮した企業だと認識されたいばっかりに、肝心の本質が疎かになってしまうのです。消費者側も、商品やサービスが環境に配慮したものかという観点で選別する傾向が強くなっています。グリーンウォッシュが増えることで、私たちはどの企業が本当に環境対策に力を入れているのか、判断に困ってしまいますよね。本当に環境に配慮する企業の努力を無下にしないためにも、グリーンウォッシュには厳しく向き合うべきでしょう。
グリーンウォッシュを規制する動きが欧州を中心に拡大
日本国内ではまだグリーンウォッシュという言葉は浸透していませんが、海外、特に欧米では規制が強化されています。誰もが知る有名企業も、世間から批判の的にされるほど消費者も敏感になっているのです。
最もよく知られる事例としては、マクドナルドのストロー問題です。同社は2018年、イギリスとアイルランドで展開するすべての店舗で、プラスチック製のストローを紙製のストローに変更しました。海洋プラスチックごみなど、プラスチックの廃棄に対する批判が高まっており、廃プラスチック削減のため紙製のストローを採用する動きとなりました。ところが、当初100%リサイクル可能と説明していたのに、実際にはストローの強度を上げるために厚く作ったことでリサイクルできず、廃棄していたことが判明しました。
ファストファッションブランドとして世界的に支持を得ているH&Mも、グリーンウォッシュを指摘されたことがあります。同社は、リサイクル可能なポリエステルなどを使用した「コンシャスコレクション」を発表しました。PR活動において、“サステナブル”なファッションと謳い、環境に優しい商品だと宣伝したのですが、リサイクルした素材の使用量などが不明瞭だったのです。ノルウェー消費者庁が「違法なマーケティングの疑いがある」と言及したことで、一気に批判を浴びる事態に陥りました。
他にも、イタリア炭化水素公社(ENI)が“グリーンディーゼル”を謳った宣伝活動について、イタリアの競争・市場保護委員会(AGCM)が罰金の支払いを命じました。グリーンの根拠が曖昧で消費者を騙す行為だと判断し、宣伝活動も中止させました。
アメリカでも、木質バイオマスの発電施設を持続可能なエネルギーとはみなさないという意見が出たり、石油大手3社(エクソンモービル、BP、シェル)が広告活動を通じてグリーンウォッシュを行ったとして、ニューヨーク市が提訴した事例もあります。連邦取引委員会がグリーンウォッシュの疑いが持たれる企業を摘発する動きも活発化しているのです。
グリーンウォッシュの日本での事例を解説
まだまだグリーンウォッシュの認知度が低い日本ですが、実は国内企業でもグリーンウォッシュだと非難された企業が存在します。時価総額ランキング日本トップのトヨタ自動車です。2008年、ベルギーでハイブリッド車「プリウス」の広告を出す際、「Zero emissions low」という宣伝文句を用いました。直訳すると「CO2排出量ゼロの低さ」という意味ですが、これが“misinformation campaign”だと批判されています。宣伝の中に、具体的なCO2排出量に関する数値や燃料消費量のデータが記載されておらず、グリーンウォッシュの疑いがあると指摘されたのです。トヨタ自動車は、広告を取り下げる判断を下しました。
メガバンクの一角、三井住友銀行はパリ協定をうけて脱炭素社会を実現すると表明した一方、石炭火力発電所への融資を継続していることが判明しました。非政府組織からグリーンウォッシュだと指摘を受け、石炭火力発電への新規融資を停止、および同プロジェクトファイナンスの貸出金残高を2040年度を目途にゼロにする目標を設定しています。
大豆ミートを製造する不二製油グループは、仕入れる大豆の供給網を徹底的にチェックしています。森林破壊を及ぼすような耕地で生産されていないか、などグリーンウォッシュ防止対策を強化中です。日本企業も、グリーンウォッシュだと指摘されないよう、同社のような姿勢が企業活動のうえで必須となるはずです。
まとめ
グリーンウォッシュの規制は将来的に日本でも導入される可能性があるでしょう。企業はどうやって事前に防げばよいのか。一番シンプルかつ大事な方法は、情報開示を徹底することです。
原材料や素材、資源の調達から製造・加工・販売に至る過程について、すべてを開示する前提に立って行動すれば、消費者を欺くような行為を安易に出来ませんよね。もちろん、グリーンウォッシュは「知らなかった」では済まされない問題です。環境に配慮した生活を一人一人が意識しているからこそ、逆手に取って私たちを騙すなんて、到底許されません。
ちょっとした誇大広告や捏造が、企業にとって致命的となる多大な損失に繋がります。グリーンウォッシュに関して、日本人もさらに厳しい目を向けていくべきだと思います。