コラム

EV(電気自動車)に関する欧州(ヨーロッパ)での最近の動向について解説

EUとEV(電気自動車)

EUと欧州議会は2022年10月に二酸化炭素を排出する自動車の販売を2035年に禁止することを決定しました。二酸化炭素を排出する車というのは内燃機関を搭載する車のことです。すなわち、現在流通するハイブリッド車やディーゼル車などが対象となり、その代わりとしてEVや燃料電池車が販売可能となる見込みです。EUの決定を受け、米国や日本でも内燃機関車廃止の動きを見せつつあります。

そもそも、EVとはElectronic Vehicleの略で、一般的には電気自動車を意味します。走行に伴い温室効果ガスを発生しないため、近年の環境規制に伴い注目を集めています。モーターで走行するEVはエンジン車と比較して動作音が静かなことが特徴です。また、停電が発生した際などは予備電源に使えるなど、様々な活用方法が想定されています。

欧州はなぜEVを推し進めているのか

EVは充電時間の割に走行距離が短く感じたり、充電設備の準備が難しいなどといった理由で購入を躊躇する消費者も少なくありません。消費者のニーズも無視できないはずですが、なぜEUはEVを推し進めているのでしょうか。

推進の背景

EV化の推進はEUが先行して取り組まれています。欧州各メーカーはEUの決定にしたがい、EVへの移行が推し進められています。その背景の一つに各国の環境政策が影響しています。現状世界各国で脱炭素社会の実現が目指されています。脱炭素社会の目標のひとつに世界の平均気温を一定程度低く保つことが掲げられています。気温上昇を防ぐために、温室効果ガスの排出量削減を目指し、その手段としてエンジンからの排気量を減らそうというのがEV化推進の背景の一つとしてあるのです。
EVを推進するのは、環境保護を重視する立場からすれば支持されるところです。一方でビジネスを主機に置く立場からすれば現場の負担も考慮すべき、という意見も一理あるのではないでしょうか。EV化が推し進められつつも、様々な視点から現在まで議論が繰り広げられています。

経営が与えた影響

欧州自動車メーカーのディーゼル車排ガス規制の不正事件もまた、EUのEV促進に拍車をかける結果となりました。メーカーのトップが引責辞任する事態となるまで騒動が拡大。排ガス規制の不正を機にEVに舵を切ることとなったメーカーもあるのです。一つのメーカーの出来事であったのですが、結果として欧州市場全体がEVへの移行を促す結果となってしまいました。そのころ同時にEV推進政策が議論されるようになり、連動して発展していったという経緯もありました。

政策的目標によるEV推進

EUの産業政策としてEVの分野でリーダーシップをとっていくことが目標として掲げられています。気候変動対策に加え、EUの産業政策としても重視されているのです。エンジンを動かす石油の大部分を輸入に頼るEU。温室効果ガスの排出量も多く、EVへの移行は低炭素社会の実現に重要な役割を担っているのです。

EU・ヨーロッパの現状のEV普及率

環境的な目標、政治的な目標などによってヨーロッパでは現在EV化が積極的に推し進められています。欧州自動車工業会のデータによると、2023年の新車販売台数について、EV車がディーゼル車を上回る結果となりました。2021年、2022年と新車販売台数は増加傾向にあり、今後の動向に目が離せません。
また、世界的に見てもノルウェーやアイスランド、スウェーデンなどの国々でEVの販売割合が高くなっており、EVが欧州で推進されていることがうかがえます。

EV普及のために各国で販売促進政策が推し進められていますが、その例の一つが補助金政策です。対象のEV車を購入する際に費用を支援するというものです。これまで取り組まれてきた政策のうち、打ち切りや条件の厳格化が行われています。今後政策の変更がEV普及にどのような影響を与えるのか要チェックです。

ノルウェーの事例から考える

EV普及のためにどのような取り組みが行われているのでしょうか。例えば、世界トップクラスのEV普及率を誇るノルウェーでは販売促進に加え、街づくりなども視野に入れた政策が行われています。
販売促進の分野ではEV購入時に購入代金に発生する税金の免除が受けられます。北欧は税金が高い傾向があり、購入に伴う税が軽減されるだけでも購入時の費用負担は相当抑えられるのです。また、EV車については通行料・駐車料の軽減、条件を満たす範囲での優先道路の利用権などが与えられ、購入後も便利に利用できるように配慮してもらえます。
さらに、政府は補助金を交付し、インフラを整備することでEVが普及する土台の整備が進められています。その一つが充電スタンドの普及です。ガソリン車と比較して走行距離が短い傾向にあるEVですが、コンビニやガソリンスタンドなど身近な場所に充電スポットの設置が進められています。
EVの普及と同時に都市部の車を減らす街づくりの政策を実施。駐車スペースをなくしたり、自転車等を増設することで交通事故の軽減が図られています。

欧州のEV推進は延期となる見通し

欧州のEV推進は内燃機関を搭載する車の販売を禁止するという大変厳しいものでした。このまま実現に向けて一層取り組みが進められるとの見立てでしたが、2023年3月にこれまでの事態が一変する発表がされました。結論として、本来の期限であった2035年以降も内燃機関が搭載された車の販売を条件付きで認めるというものです。
自動車が基幹産業のひとつであるドイツを中心とした勢力の意見に同調する形となりました。水素と二酸化炭素から生成されるe-Fuel(イーフューエル)を使う内燃機関であるということが販売できる条件です。e-Fuelは二酸化炭素を排出しますが、すでに排出された二酸化炭素を原料として生成される燃料です。二酸化炭素の二次利用ということで環境負担に配慮された脱炭素が期待できる燃料として注目されています。コストが高くつくという特徴があり、一部の車種に導入されることが予想されています。また、エンジンが引き続き使えるという抜け穴を作ることとなるので、EV推進を阻害させるとして一部批判の声も上がっています。

e-Fuelなどのエンジンを認めれば、日本のハイブリッド車も不利にならない可能性があります。日本においては、日常生活レベルではあまりなじみのない燃料です。しかし資源エネルギー庁ではカーボンニュートラルの実現のために導入すべき燃料として位置づけられています。自動車産業が基幹産業のひとつで、完全なEV化は重要でありつつも実態に即しているとは言えないのが現状です。ドイツと日本は現状をある程度共有しているとも言えます。ヨーロッパのEV推進の動向や完全移行の延期は今後の日本の自動車産業の在り方を考える上で無視できないことなのではないでしょうか。EVシフトを意識しているのは欧州や日本だけでなく、アメリカや中国なども同様です。広く議論を行い、EV以外の選択肢を視野に入れ、持続的な発展への道を探り続けなければなりません。

まとめ

持続可能な社会を維持するため自動車の排気ガス規制などが見直され、EV化が推し進められてきました。現在、欧州ではEVの需要が冷え込みつつあります。これまで積極的に取り組まれてきた補助金などの政策が、財政再建によって見直されつつあるためです。さらにインフレのあおりを受け金利が高くなっており、カーローンも組みにくくなっています。また、場所にもよりますが充電スポットの増設も必ずしも間に合っている状況ではありません。これまでの上昇傾向に陰りが見える現在、今後さらなるEV普及に向けてどのようにアプローチしていくかが課題となっています。