コラム

太陽光発電に関する規制強化が各自治体で進んでいる?

太陽光発電がNGの自治体

大規模な太陽光発電所が全国各地に設置されており、発電容量は増加の一途をたどっています。すべての電力需要に対する再生可能エネルギーの供給割合を高めるため、今後も太陽光発電の普及拡大は続いていくでしょう。
ところが昨今、太陽光発電事業の規制を強化する動きが各自治体で進んでいるのです。普通に考えれば、環境に優しいクリーンなエネルギーをどんどん増やす流れに矛盾するように思えます。どうして各自治体で規制強化が行われているのでしょうか。その実例を紹介しながら、現状を追っていきます。

太陽光発電の規制が条例で設定された例

全国に先駆けて、大規模な太陽光発電所を設置する際に届け出を義務化する条例を2017年に定めたのが、兵庫県です。その後は、届け出が認可された施設で発電が開始されていきました。
しかし、2018年に発生した西日本豪雨の影響で、山中に設置された太陽光パネルの崩落事故が発生しました。取付け工事に不備がある、または設置場所が悪いと大きな事故が起きる危険があるとの認識が広まり、同県は規制の強化に踏み切ります。
その内容は、5,000平方メートル以上の民有林に太陽光発電を設置する場合、届出制から許可制に変更となります。加えて、事前に環境アセスメントの手続きを義務化、太陽光パネルの廃棄処分についても命令が可能となり、命令に従わないと最大50万円の罰金を課すことができます。

熊本県の阿蘇地域一帯にも、大規模な太陽光発電所が次々に設置されていますが、現地ではこの状況に警鐘を鳴らしています。阿蘇南部に位置する山都町には、福岡PayPayドーム約27個分という広大な敷地に太陽光発電所が設置されました。かつて草原だった土地を事業者が買い取って、大量の太陽光パネルを並べたのですが、「景観を害する」という声が高まっているのです。
そこで、熊本県を中心とする協議会が発足。「発電所が眺望を著しく傷つけることはあってはならない」と宣言します。阿蘇地域の中央部を、太陽光発電施設を誘致するにあたり“除外すべき区域”に指定しました。

千葉県野田市も太陽光発電事業の規制条例を行った自治体の一つです。2019年に「太陽光発電設備の適切な設置等に関する条例」を制定して、発電出力30kW以上の太陽光発電施設を設置する事業者に届けを義務化しました。
背景には、事業者の破綻によって設備が撤去されず、太陽光パネルなどが放置された状態になるのを防ぐ目的があります。2023年には規制対象を30kwから10kW以上に広げ、事業計画通りに運用管理されていないと判断する場合、許可取り消しが可能となります。

千葉県は、大規模な太陽光発電所が多いこともあって、野田市を含めこれまで5市町が規制条例を制定しています。不適切な事業者の参入を防止し、太陽光パネルの放置によるトラブルを避ける方針です。

太陽光発電の保安規定の例も併せて解説

2023年3月、太陽光発電の設置に関する保安規制が強化されました。10kW以上50kW未満の低圧太陽光発電を運用する事業者に、大きな影響があります。
保安規定とは、電気事業用及び自家用電気工作物などの保安確保のための一連の法体系を指すものです。電気工作物つまり太陽光発電の安全を確保するため、工事・維持・運用について、設置者が経済産業大臣に届け出をしなければいけません。

具体的には、「高圧ガス保安法等の一部を改正する法律」が成立し、10kW以上50kW未満の太陽光発電は新設された“小規模事業用電気工作物”に分類されます。以下の3つの義務が設置者に課せられることになりました。

①技術基準適合維持
②基礎情報届出
③使用前自己確認結果届出

技術基準適合維持とは、太陽光発電を設置する時に技術基準に適合させた上で、適合状態を維持する義務が生じる規定です。たとえば不具合が起きたのに放置した場合、規則違反に該当すると認識してください。
基礎情報届出とは、設備や設置者についての基本的情報および保安体制に関する内容を経済産業省に届け出ることが必要になるものです。保安管理担当者名や点検頻度の記載も求められます。
使用前自己確認結果届出とは、太陽光発電の運転開始前に、技術基準適合性を確認して、その結果を経済産業省に届け出るものです。これまでは、500kW以上の大規模な設備にのみ課せられた義務ですが、今後は低圧の太陽光発電にも適用されます。

原則として、2023年3月以前に使用開始済みの設備については届け出の必要はありません。ただし、基礎情報の変更や改修が行われた場合は、速やかに届け出ないといけないので覚えておきましょう。

50kw以上の太陽光発電を行う場合は、主任技術者が必要

所有する太陽光発電所の出力容量が50kW未満と50kW以上では、大きな違いがあります。“50kWの壁”と表現されることもあり、必ず頭に入れておきたい大事な内容ですので、これから説明していきます。

電気事業法において、50kW以上の太陽光発電は自家用電気工作物という扱いです。この場合、電気主任技術者を選任して経済産業省に届け出る義務が課せられます。工事に関しても、第1種電気工事士または認定電気工事従事者への依頼が必要です。

主任技術者は、電気主任技術者免状の保有者の中から、発電所の規模によって人選することになります。とはいっても、身の回りに該当する者がいないケースもありますよね。そのため、電気主任技術者を専門の団体、たとえば東京電気管理技術者協会に所属する資格保有者に委託することが可能です。

発電所のオーナーは、年間2回の点検義務が課せられ、電気主任技術者が行います。点検にかかる費用の目安は、出力容量50kW~100kWだと、およそ年間6万円程度といわれています。
一方、50kW未満の太陽光発電設備は、一般用電気工作物と扱われ、電気主任技術者の選任は通常不要です。“50kWの壁”を超えると、手間やコストが色々と増加します。個人で運用する場合、スペースに余裕があっても、意図的に49kW以下にとどめる方が少なくないのです。

まとめ

太陽光発電所を全国に次々と設置して、発電容量が加速度的に増加するのに伴い、トラブルや災害も度々起こっています。大規模な設備を導入するには、当然広大な面積が必要になるわけです。しかし、地元の方々が長年親しんできた景観を害したり、崩落事故などの災害に巻き込むことは、決して看過されるべきではありません。

太陽光発電事業に参入する業者が増えるほど、十分な管理を怠り、太陽光パネルを放置するなど不適切な事案が出てきました。各自治体も条例を制定して、悪質な業者が入る余地を与えないよう、対策を打っています。これから太陽光発電所を所有することになる方は、くれぐれも自分に課せられた義務をしっかり遵守し、安心安全な運用管理を心掛けてください。