コラム

日産の代表的なEVについて解説

日産自動車は、2010年に世界初のバッテリー型電気自動車(BEV)を発売したことで知られ、EV界の先駆者といわれた大手メーカーです。しかし、中国企業が台頭する影響をうけ、次第にシェアが低下。最近はあまりよい話題を聞かず、不祥事が目立ちます。排気ガス・燃費検査の測定データを改ざんしたり、部品製造の下請け業者への支払代金およそ30億円を不当減額するなど、企業統治が問われる事案が相次いで発覚しました。
EVシフトも中々進まず、中国や欧米メーカーに遅れを取ってしまいましたが、同社は2024年以降巻き返しを図るべく、具体的な戦略を公表しています。世間から失った信頼を取り戻すためにも、今後のEV戦略が日産自動車の運命を決めるといえるかもしれません。この記事では、同社を代表するEV車種や、中長期的な戦略について解説していきたいと思います。

日産のEV戦略

2024年3月、日産自動車の内田誠社長兼CEOが、すべてのステークホルダーに向けて中期経営計画を発表しました。新型車の投入、電動化の推進や戦略的パートナーシップの実現などを宣言したのです。
大きな目標として、2026年度までにグローバルで16車種の電動車両を含む30車種の新型車を投入することを掲げています。30車種のうち、電動車両が半分以上を占め、残り14車種は内燃エンジン車となります。さらに細かく見ていくと、まず2024年度に2車種のEVを投入予定です。翌2025年度には2車種のEVおよび“e-POWER”とPHEVを1車種ずつ市場に投入する計画です。e-POWERとは、エンジンで発電してモーターで走る電気自動車の一種で、燃費性能がハイブリッド車並みに優れているのが特徴の車種です。

そして2026年度には、4車種のEV、3車種のe-POWER、3車種のPHEVを立て続けに販売開始する予定です。同時に、内燃エンジン車のラインナップのうち、60%を刷新します。電動車両と内燃エンジン車のバランスの取れたポートフォリオを構築し、年間販売台数を100万台増加させる見込みです。計画通りに進んだ場合、グローバルでの車種構成のうち電動車両が2026年度に40%を占めることになります。
2030年を視野に入れた中長期の取り組みとしては、計34車種の電動車両を投入して、すべてのセグメントをカバーできるようにします。新規ビジネスにより、最大2.5兆円の売上をあげる期待を持っており、車種構成のうち電動車両が60%に達する計画です。

日産自動車はこのEV戦略を力強く実行するため、戦略的パートナーシップを活用します。同社は、フランスのRenault(ルノー)グループおよび三菱自動車と日仏3社連合を結んでいます。先ほど、2026年度までに30車種の新型車を投入すると言及しましたが、15車種をパートナー企業が開発する予定です。
中国の東風汽車と合弁で設立した「東風日産」は、2003年に発足後、日系合弁メーカーのなかで市場シェアトップを獲得した時期もありました。現地資産をフル活用し、15車種のうち5車種の開発を担います。内訳は2車種のEV、3車種がPHEV・HEVです。のこり10車種は、Renaultグループと三菱自動車が協力して開発する方針となっています。

内田誠氏は、「この計画によって、日産は価値と競争力をさらに向上させ、持続的な成長と収益性を確保するための取り組みを実行していきます」と語りました。日仏3社連合を筆頭とする“ファミリー”での革新的な開発により、次世代EVのコスト30%を実現させ、将来的には内燃エンジン車と同等のコストまで低下させることを目指します。

日産の電気自動車・アリアはどんな車?価格についても解説

日産自動車が発売した「アリア」は、クロスオーバーSUV(多目的スポーツ車)タイプのEVです。世界戦略車と位置づけられ、欧米や中国でも販売されています。「アリア」には、エントリーグレードであるB6の前輪駆動と四輪駆動モデル、B6よりバッテリー容量が大きいB9の前輪駆動と四輪駆動モデルがあります。B6の前輪駆動モデルは航続距離470km、バッテリー容量66kWh、最高出力160kWです。

2022年に「サクラ」と共にグッドデザイン賞を受賞するなど、好評を博した「アリア」ですが、2022年7月末から受注を停止する事態が起きます。当時はB6の前輪駆動モデルのみを販売していましたが、世界的な半導体不足やサプライチェーンの停滞によって、生産が追いつかなくなったのです。2024年3月、車両供給の目処がついたとして、ようやく注文受付を再開しました。同時にB6の四輪駆動とB9モデルの販売開始に至りました。
さらに、2024年6月には、スポーツ車仕様の「アリア NISMO」を投入します。NISMO用の加速チューニングを施し、安定した操縦性能を搭載した、同社EVのフラッグシップモデルです。「東京オートサロン2024」で先行公開されており、満を持して市場に登場します。

車両価格について、エントリーグレードの「アリア」B6前輪駆動モデルは659万100円です。ただし、2022年5月に発売開始した当初は、539万円でした。注文再開に伴い、およそ2割値上げしています。原材料高や物流費高騰などが理由とのことです。消費者にとっては、いきなり100万円以上高くなったわけですから、ネガティブサプライズだったかもしれません。
フラッグシップモデルのNISMOに関しては、B6は842万9300円、B9だと944万1300円です。かなり強気といえる価格設定が売上にどう影響するか注目されます。

日産の電気自動車でバンのタイプは存在する?

日産自動車が発売している主なEVは、「リーフ」「アリア」「サクラ」などが挙げられます。そのラインナップに、2024年2月から、軽商用EVバン「クリッパーEV」が加わりました。「クリッパーEV」は、三菱自動車からOEM供給を受けた車両をベースに販売するモデルです。「三菱ミニキャブEV」の姉妹車種という位置づけとなります。
バッテリー容量は20kWhと、「アリア」の3分の1程度です。航続距離180km、普通充電だと7.5時間、急速充電なら容量80%まで40分程度で充電できます。荷室は最大積載容量350kgを確保し、ホイールハウスの出っ張りや後席を倒した時の段差をなくしています。荷物の出し入れがしやすく、軽商用バンとしての機能性を高めています。

2シーター、4シーター、そして2シーターのルートバンモデルの3車種を揃えており、いずれも後輪駆動です。価格は以下の通りです。
●2シーターモデル:291万2800円
●4シーターモデル:292万500円
●ルートバンモデル:286万5500円
商用向け車両でもEVの需要が高く、「クリッパーEV」の市場シェア拡大に期待したいところです。

まとめ

日本企業としてEVの先駆けとなった日産自動車も、海外企業との激しい競争の中で、次第に勢いを失っていきました。しかし、10年以上にわたり培ってきた技術とデータ、さらに日仏3社連合という強力なパートナーと協力し、再びEV業界のトップを狙っています。2030年までに30車種以上の新型車を投入するという意欲的な戦略を公表し、電動車両シェア拡大に向けて経営資源をフル活用します。日産自動車が再び成長軌道に乗ることができるのか。まずは2026年までの中期経営計画の目標達成を目指します。