両親や親戚が農業をやっていたけど、自分は引き継ぐ意思がないから農地を別の目的で使用したいと思っている方もいるのではないでしょうか。色々な選択肢の中で、太陽光発電用途に変えたいと考えるかもしれません。
しかしながら、農地にいきなり太陽光発電を設置してしまうのは、場合によって罰せられる恐れもあるため、注意しなければなりません。農地だった場所に野立て太陽光発電を設置する際には、必ず「農地転用」の手続きを行う必要があります。
今後、農家を継承する者がおらず、農地の使い道を検討する方はますます増えると思います。そこでこの記事では、「農地転用」について詳しく説明していきます。
農地転用とはそもそもなに?
「農地転用」とは、農地を農業以外の目的で転用することを意味します。国家の農業保護政策により、無断で農地を農地以外の目的に利用することは禁止されています。農業は、私たちの生活に不可欠な食糧をもたらしてくれる大切な産業です。ただでさえ日本は食料自給率が低いです。いくら太陽光発電に利用した方が儲かるからといって、もし大半の農地が転用されたら、食糧危機が起こるかもしれません。安定的な食糧生産を確保するためにも、無断で転用することは禁じられているのです。
どうしても農地転用したい場合は、原則として都道府県知事の許可を得なければなりません。農地面積が4ha以上だと、農林水産大臣の許可が必要となります。無許可で転用すると、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(※法人の場合1億円)が課せられます。「工事等の停止命令」「原状回復その他違反是正命令」を受けることになり、これに従わないとさらに6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。無断での転用は犯罪扱いとなりますから、絶対にやめてください。
農地転用を行うときの流れを解説
「農地」は、都市計画法により「市街化区域」と「市街化調整区域」に分類され、さらに細かく5つの区分が存在します。
①農用地区域内農地
②甲種農地
③第1種農地
④第2種農地
⑤第3種農地
このうち、④と⑤に関しては、市街地化が見込まれる、もしくは市街地化の傾向が著しい区域、または既に市街地の区域です。農業生産性が低いと判断された場所ですので、第3種農地なら農地転用の許可がほぼ通りますし、第2種農地も周辺の土地で事業を行うことが不可能と認められれば許可されます。一方、①~③は農業生産性が高い場所であり、原則として転用が許可されていません。②の甲種農地は「市街化調整区域内の土地改良事業等の対象となった土地」、①の農用地区域内農地は「市町村が定める農業振興地域整備計画において農用地区域とされた土地」と定められているため、特に厳しく判断されます。ただし、条件によっては許可が下りる可能性もゼロではないため、転用を検討する方は手続きを行ってみると良いでしょう。
農地転用手続きは、まず申請者が農業委員会に申請書を提出します。次に農業委員会が、意見書を付して都道府県知事に送付します。知事から農業会議へ意見聴取を行い、農業会議からの返答をうけ、知事が農業委員会を経由して申請者に許可書を送付するのが一連の流れです。第3種農地ですと、農業委員会に届出書を提出して受理され、すぐに転用が認められるケースもあります。
また農地転用は所有者ないし設置者本人が申請する方法と、代理申請する方法があります。代理手続きは、施工・販売店や行政書士などに依頼することが可能です。なお、本人申請だと農地法4条の許可が必要となり、代理申請は農地法5条の許可が必要となります。
許可申請において必要な書類は、「申請に係る土地の登記事項証明書」「申請に係る土地の地番を表示する図面」「転用候補地の位置及び附近の状況を示す図面」など多数あります。書類に不備があると申請・届出が受理されませんから、管轄の農業委員会へ必ず確認するようにしましょう。
農地転用にかかる費用については、本人が申請する場合と代理申請で大きく異なります。本人申請ですと、土地の登記事項証明書や地図などの発行費用で大体1万円前後かかるといわれています。必要書類はすべて自分で揃えることが出来ますが、種類が多いうえ初心者の方だと不明な点も部分も出てくるでしょう。時間に余裕がない方は、代理申請を依頼してみるといいかもしれません。その場合、20万円程度の費用がかかると想定しておくべきです。どうしても自分で行うより費用がかさみますが、煩雑な手続きを専門家がスムーズに済ませてくれます。
農地転用を行う際、土地の地目はどうなる?
地目は、不動産登記法における土地の登記事項の一つです。土地の主たる用途を表わすための名称で、全部で21種類あります。「田」や「畑」となっている場合は、当然ながら農地扱いとなりますので、太陽光発電への農地転用は難しいケースが多いでしょう。とはいえ、地目は形式上ではなく土地の現況及び利用目的に重点をおいて定めるものです。耕作放棄地や有休農地など、現在は農地と言えないような状況の場所ですと、地目の変更(※例えば「宅地」に変える)が認められ、農地転用の許可申請が行えるようになります。先程も言及した通り、農業は私たちの生活に欠かせない産業です。一旦地目が変更されると、再び田や畑に戻す可能性は低いとみなされ、そう簡単に変更は受け入れられません。
地目が「農地」のままその場所を活用するための方法として、昨今注目されているのが「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」です。農地に支柱を立て、農業を継続した状態で太陽光発電事業を運営すれば、作物栽培とエネルギー生産の両立を図ることができます。
まとめ
農地転用を検討する際には、まず該当の土地がどの区分に属するのかを把握することが重要です。第3種農地なら届出が受理されやすいですし、農用地区域内農地だと許可が下りる確率はかなり低いでしょう。一方で、元々農地だった場所は、日当りの良いところが多いはずです。市街地化していない場所こそ、日光を遮る高い建物が無く、太陽光発電に適するケースは往々にしてあります。
どうしても許可申請が難しい時には、ソーラーシェアリングを専門業者に相談してみるのが賢明です。くれぐれも無断転用せず、どのような形であれ正式な手続きを踏んで実行に移すようにしましょう。