コラム

ペロブスカイト太陽電池の進化が止まらない?最近の動向を解説

軽くて曲がるという特徴を持つ次世代の太陽光パネル、「ペロブスカイト太陽電池」の開発が進んでいます。ペロブスカイト太陽電池は、フィルム型とガラス型の2種類があり、特にフィルム型はこれまで太陽光パネルの設置が難しかった場所にも取付可能です。重さがシリコン製パネルの10分の1という軽量性にも注目が集まっています。

日本初の技術で、多くの企業が実用化に向けて研究開発を行っている一方、海外企業も続々と参入し、競争は激しさを増すばかりです。2035年に全世界の市場規模が1兆円に達するとの見方もあるため、なんとしても日本企業がシェア獲得を目指したい分野です。そんな「ペロブスカイト太陽電池」の最新動向について、詳しく見ていきましょう。

ペロブスカイト太陽電池を開発する企業の最新ニュース

2024年5月、国内でペロブスカイト太陽電池に関する大きな動きがありました。斎藤健経済産業相が閣議後記者会見にて、同電池の官民協議会を開催していく考えを公表したのです。
「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力の強化を図るための総合的な戦略を策定するため、今月下旬から官民協議会を開催したいと思っています」と述べ、メーカーのみならず空港・建設・不動産、そして再エネ導入に積極的な自治体など、幅広い官民の関係者が参画することを明らかにしました。

「導入目標や価格目標の策定、サプライチェーンの構築、海外市場の獲得に向けた取り組みなどを検討します。官民連携のもとで、世界に引けを取らない規模とスピードの両面で投資を実現し、次世代太陽電池の分野で世界をリードしていきたいです」と官民協議会の目的や今後の方針を語っています。
5月29日に初会合が開かれ、高村ゆかり東京大学教授が「諸外国でも研究開発競争が激化しており、早期の社会実装に向けて官民一体となって取り組むことが必要」と述べ、国際競争力を高めるために開発のピッチを上げていく必要があることを主張しました。

官民連携をいち早く実現しているのが、東芝エネルギーシステムズです。福島県大熊町と共同で、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた実験を開始しました。
大熊町役場内に同社が開発したフィルム型ペロブスカイト太陽電池を4枚設置して、この電力を用いて5Vの出力を行います。タブレットの充電や照明を稼働させる検証を始めており、復興まちづくりを推進する目的です。
複合機やカメラで有名なリコーは、2024年3月、東京都と連携してペロブスカイト太陽電池の実証実験を行うと発表しました。都内の高齢者向け集合住宅や、都庁の展望室にシステムを設置して、本格的な導入に向けた検証を進行中です。
リコーは他にも、大田区の小学校や厚木市役所など公共施設にもペロブスカイト太陽電池を設置し、再生可能エネルギーの活用を促進しています。

ペロブスカイト太陽電池に関して、トヨタの取り組みを解説

国内自動車メーカー最大手のトヨタ自動車は、スタートアップの「エネコートテクノロジーズ」と、車載向けペロブスカイト太陽電池を共同開発すると発表しました。“カーボンニュートラル実現への貢献”という共通の目的意識を持つ企業が連携します。
エネコートテクノロジーズは、京都大学の若宮淳志教授が開発した技術を基に2018年に創業したベンチャー企業です。暗い場所でも効率的に発電できる材料を強みにしており、室内など太陽光が届きにくい場所でも効率的に発電することが可能だといいます。

トヨタ自動車は、プリウスのプラグインハイブリッド車や今後展開する電気自動車の屋根に太陽電池をつけるオプションを提供します。現在はシリコン製太陽光パネルを顧客に提案していますが、将来はペロブスカイト太陽電池を採用する見込みです。
ペロブスカイト太陽電池は、屋根だけでなくボンネットにも取り付けることで、設置面積を2倍に増やし、計算上は約3倍の3600キロメートル走行分を発電できると同社は話しています。エネコートテクノロジーズが実証実験で行ったところだと、7.5平方センチメートルの小型サイズでは、発電効率21%という高い数値を実現しました。

しかしながら、車載向けの大型サイズではまだまだ未知数な部分が多いです。両社の構想によれば、日々の近距離移動だけなら太陽電池の発電で必要な電力を賄えるため、EVへの充電が不要になるのではと期待を寄せています。ペロブスカイト太陽電池を車両に搭載できるとなれば、EVの普及拡大において強力な後押しになるのは間違いありません。日本はEVの開発で海外企業に後塵を拝しており、トヨタ自動車とエネコートの共同開発が巻き返しの一手を担います。

ペロブスカイト太陽電池の関連銘柄についても解説

●パナソニックホールディングス
多種多様な家電製品を生産・販売するパナソニックは、ペロブスカイト太陽電池の分野でも注目度が高い企業です。同社は、ガラス型に強みをもち、住宅の窓など建築物に取り付ける次世代型電池の開発を進めています。
研究用の小さいサイズではなく、実用的な800平方センチメートルのペロブスカイト太陽電池について、世界最高水準となる発電効率18%超えを実現しました。しかも、20年の耐久性を達成しており、20年間の保証が可能な水準を目指している段階です。

パナソニックは、ペロブスカイト太陽電池に関する特許ついて、累計数でトップを誇ります。2025年度末までに、大型インクジェット塗布装置で製造したペロブスカイト太陽電池の出荷を始める見込みです。

●MORESCO
ホットメルト接着剤が主力事業のMORESCO(モレスコ)は、ペロブスカイト太陽電池の封止材という新たな需要創出を目指しています。自社で培ってきた技術を応用して、有機ELディスプレイ用封止材を開発するなど事業展開を広げている同社は、この封止材がペロブスカイト太陽電池の発電層を劣化させない性質を持つことを確認したのです。
封止材によって、外部から液体などの侵入を防ぎ、なおかつ内部の材料を劣化させず製品寿命の長期化が認知されれば、国内外でトップシェアを獲得できると自信をのぞかせています。MORESCOは他の関連企業と連携しながら研究開発を行い、2026年度以降封止材の売上を伸ばす構えです。

●エヌ・ピー・シー
太陽光パネル検査サービスやリサイクル、そして薄膜系太陽電池の製造装置などに強みを持つエヌ・ピー・シー(NPC)も注目銘柄の一つです。約30年に渡り製造装置を提供してきた実績を活かし、次世代型太陽電池の製造装置や製造ラインの提供を始めています。同社いわく、「近年引き合いが急速に増えてきた」といい、すでに複数の企業から受注を獲得したとのことです。
中長期的にはペロブスカイト太陽電池の量産対応に関する大型案件も期待でき、アメリカの太陽電池メーカー「ファァーストソーラー」とも緊密な関係を築いています。まだ企業の規模は小さいものの、今後飛躍的な成長が期待できるかもしれません。

まとめ

日本発祥の技術として注目されるペロブスカイト太陽電池ですが、近年は中国を筆頭に海外企業も実用化に向けた研究を加速しています。開発のスピードを上げていかないと、シリコン製太陽光パネルのように、海外企業にシェアを奪われ、日本企業が太刀打ちできなくなる状況にもなりかねません。
そういった危機感を背景に、経済産業大臣が官民協議会を立ち上げ、開発に携わる企業など約150の団体が集結し、連携を強める方針です。将来、ペロブスカイト太陽電池の市場規模が拡大することはほぼ確実視されているからこそ、多くの企業にチャンスがあります。日本人として、日本企業がこの分野で世界を牽引する存在になることを期待しています。