コラム

ソーラーシェアリングの事例や取り組む自治体について解説

ソーラーシェアリングと地方自治体

ソーラーシェアリングを導入する農家・企業が増加してきており、この取り組みのメリットや課題点などが徐々に見えてくるようになりました。本記事では、ソーラーシェアリングにおける導入事例と現状について解説していきます。

ソーラーシェアリングによる耕作放棄地の有効利用の事例

農業では、担い手の高齢化や後継者不足による耕作放棄地の問題が深刻化しています。もともと農地として使用されていたものの、営農を維持することができずに、その土地が長期間放棄されてしまう状況です。2020年にはそんな耕作放棄地の面積が42万3000haにまで達しており、今後も増えていくことが予想されています。
ソーラーシェアリングは、そんな耕作放棄地を再生させる手段としても注目されています。農地に太陽光発電設備を設置し、営農と発電の両方を行う環境を整えることで二重収益を可能にするこのシステムは、さまざまな事情で放棄せざるを得なかった耕作放棄地を再生させる可能性を秘めているのです。
その成功事例としてよく挙げられるのが、千葉県の匝瑳(そうさ)市の取り組みです。同市では、耕作放棄地の拡大を改善する選択肢として、ソーラーシェアリングを導入しています。その目的のために設立された匝瑳ソーラーシェアリング合同会社によって、2017年に耕作放棄地だった土地に「匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所」を設置し、発電所としてだけでなく、農地としても再生することに成功しました。これは、耕作放棄地であった土地を改めて農地として再生した、日本で初めてのケースとなりました。

この発電所の大きな特徴は、非常に広い土地に太陽光パネルを設置しつつも、農地ではトラクターの稼働を可能するなど、農地としても十分に使用できる環境にあることです。農地の上部の空間に太陽光パネルを設置するソーラーシェアリングの場合、いかに発電設備と農地の両方をうまく機能させられるかがテーマになります。ここでは、十分な面積を確保したうえで大規模な環境を整えることで実現しているのです。この成功事例は、その後のソーラーシェアリングの可能性を多く切り開くものとして評価されています。

ソーラーシェアリングと企業の取り組み

他の都道府県・市町村でも、ソーラーシェアリングを導入する例が増えています。匝瑳市とともに、成功事例として挙げられるのが鹿児島県志布志市の例です。この地では、株式会社たかとみファームがソーラーシェアリングを導入し、耕作放棄地の再生と安定した農業収入を目指しています。この地でもやはり耕作放棄地の拡大が問題となっており、それを改善する手段としてソーラーシェアリングを選択した経緯があります。ソーラーシェアリングは、単に既存の農地の有効利用や二重収益の獲得だけでなく、先細りしていく農業全体の問題を改善する手段として、魅力的なメリットを持っていることを意味しています。
鹿児島県志布志市の導入事例では、ソーラーシェアリングの導入を巡るさまざまな問題点も浮き彫りになっています。導入の際には農地の一時転用許可を得る必要がありますが、一度この審査に落ちてしまったと言います。その理由として、審査を行う農業委員会の間でソーラーシェアリングに関する認知が進んでおらず、十分に理解を得られないままだったことが挙げられています。

このように、農業の危機を救う可能性を秘めている一方、まだまだ世間的な認知が低いことで、導入の際にさまざまな支障をきたしてしまうケースもあるのです。この点は、今後解消していくべき大きなテーマとなるでしょう。
たかとみファームでは、一度審査に落ちた後に徹底的なデータ収集を行い、説得の力のある資料を用意したうえで再度審査を受けて、クリアすることに成功しました。この事例は、これからソーラーシェアリングの導入を検討している人たちにとって非常に参考になるでしょう。また、この事例では、ソーラーシェアリングの準備から実際に導入するまでに、1年半ほどの期間がかかっています。思い立ったからといってすぐに導入できるわけではなく、準備のための時間をある程度確保する必要があることも分かるでしょう。

ソーラーシェアリングを成功させる条件とは?

これらの事例から、ソーラーシェアリングを成功させるための条件が見えてきます。まず、ある程度の設備が必要になることです。今回紹介した2つの事例は、どちらも企業が行う形をとっています。個人経営の農家が自分の農地に太陽光発電設備を設置する、という小規模なソーラーシェアリングの例はまだ少なく、実際にどれだけの収益が見込めるのか、導入にかけた費用に見合うメリットが得られるのかについてのデータが十分に出揃っていない状況です。
耕作放棄地を利用するのも、ある程度の土地を確保する必要があるからという面がありそうです。匝瑳市の事例では、ソーラーシェアリングを導入した土地にはもともと複数の土地の所有者がいました。その地権者の協力を得るために、事前に苦労した面もあったようです。つまり、ソーラーシェアリングは個人が行うものではなく、その地域で協力し合って取り組むプロジェクト、とも言うべき面を持ち合わせています。十分な発電量を確保したうえで営農も問題なくできるだけの土地を確保するのはもちろんのこと、実際の太陽光発電設備を導入・運用を担当する企業の協力を得る必要も出てきます。複数の所有者がいる農地をひとつにまとめてソーラーシェアリングの環境を整えた場合には、誰が実際の営農を行うのかといった問題も出てきます。

そうなると、作物をどうするかという問題も出てくるでしょう。上部の空間に太陽光パネルを設置して日差しを遮る形となるため、半陰性・陰性植物を栽培するのがソーラーシェアリングの原則です。それまで陽生植物を作物として手掛けていた土地にソーラーシェアリングを導入する場合には、作物を変更する必要も出てくるでしょう。複数の農家が協力してソーラーシェアリングを導入する場合、手掛ける作物についても全員が合意したうえで決める必要が出てきます。こうした意思の統一ができるのかどうかです。
匝瑳市の事例では、ソーラーシェアリング環境を整えたうえで、実際の営農は地域の農業生産法人に委託する形をとっています。このように、ソーラーシェアリングの土地では、従来の営農とは異なるアプローチが必要になる面も出てくるのです。

まとめ

すでにソーラーシェアリングを導入し、一定の成果を挙げている事例から、さまざまな知見を得ることができます。そこからは導入・運用のためのさまざま課題や問題点も見えてくる一方で、そうした問題を頑張ってクリアすることで、導入する価値があるメリットも見られます。耕作放棄地の再生、そして地域農業そのものの再生にも寄与することができるソーラーシェアリングは、耕作放置地を含む農地の規模が大きな地域では特に、非常に大きな可能性を秘めた選択肢と言えるのではないでしょうか。今後普及が進めば導入コストも少なくなるでしょうし、ノウハウが蓄積されればよりスムーズに導入・運用できる環境が整えられていくでしょう。今後の動向に期待したいところです。