環境への負荷が少ない発電方法として、日本全国で設置件数が増加している太陽光発電ですが、実は大きな問題が起きています。それは、太陽光発電所を標的にした盗難事件が急増しているのです。
窃盗グループが狙っているのは、主に銅線ケーブル。被害額が数百万円単位の事例も出ており、深刻な影響を及ぼしています。どうして太陽光発電にまつわる盗難事件が多発しているのでしょうか。その実態に迫ってみたいと思います。
太陽光発電でケーブル盗難事件が多発中?
発電設備に用いられている銅線ケーブルを狙った盗難が、北関東や東北地方などで頻発しています。自治体別の再生可能エネルギー導入量で全国1位(※2020年)になった茨城県は、日照時間や地盤が太陽光発電に適しているため、設置件数も全国上位です。農地周辺や山間部といった、人目につきにくい場所にある発電所も多く、犯行グループのターゲットになりやすいようです。
茨城県を中心に栃木県や千葉県など5県で、たった4ヶ月程度の間にケーブル合計81kmが盗まれ、被害総額およそ2億7000万円に達した事件がありました。これは、業界のみならず世間にも衝撃を与えました。群馬県でも、県内の太陽光発電所で銅線ケーブルなどが盗まれる事件が、2023年1月から6月までに約360件、前年の6倍以上に膨れ上がりました。被害総額は約4億3000万円です。
事業用の大規模太陽光発電所において、1ヵ所で銅線ケーブル1km以上が盗まれ、1500万円以上の被害を受ける事件も発生しています。こういった被害が増加し続けると、太陽光発電による安定的な電力供給すらままならない状況に陥るリスクも頭をよぎります。
なぜ犯人たちは、太陽光発電所を狙うのでしょうか。その理由として挙げられるのは、銅価格がここ2~3年で急騰していることです。新型コロナウイルスの感染拡大で銅の需要が一時低迷しましたが、経済の回復に伴い、価格が3年前のおよそ1.6倍に上昇しています。銅線ケーブルには銅が使用されているため、換金目的で多くのケーブルが盗難の被害に遭っているわけです。
実際、茨城県内のとある太陽光発電所に設置された防犯カメラには、複数の人物が深夜に侵入して、銅線ケーブルを切断して施設の外に運び、車に乗せて走り去る映像が残っていました。犯人は、「盗んだケーブルは買い取り業者に販売した」と説明しており、同じようなケースが全国で起きています。
窃盗グループの中には、実習生として日本を訪れるも在留資格が失効し、不法滞在を続ける外国人集団も少なくありません。カンボジア人やベトナム人など東南アジア系グループの犯行も多く、犯罪集団は今も増えているといいます。
太陽光発電の盗難の保険は存在するの?
太陽光発電を導入する際には、任意で保険に加入することができます。元々は、台風や火災といった自然災害への対策として加入するケースが一般的でした。しかし昨今、盗難被害が相次いでいるため、盗難に備える目的で保険を選ぶ方も増えています。
自然災害で太陽光発電システムが壊れた場合など幅広い損害を補償してくれるサービスとして、動産総合保険があります。普通火災保険を選ぶことも可能ですが、盗難への補償は通常含まれません。
動産総合保険の年間保険料は、太陽光発電の初期費用に対して2.5~3.5%の金額がかかるといわれ、年間3~4万円が目安となります。ただし、保険会社によって補償の範囲が異なることに加えて、近年は補償の条件が厳しい傾向にあるため、注意が必要です。
保険の実情に目を向けると、2022年に損害保険会社各社は太陽光発電の保険料を20~30%値上げしました。自然災害の増加を理由にしたものですが、値上げかつ契約期間を1年間に短縮するなど、制約が増えています。
しかしながら、大手損害保険会社いわく、盗難による保険金の支払い件数が増えて、太陽光発電関連の保険事業は赤字のところも多いそうです。そのため、免責金額の切り上げが実施され、自己負担額が100万円という条件が一般的になりました。
盗難被害も補償の範囲内に含まれるかは、保険会社によって異なると言わざるを得ません。上述した茨城県や群馬県など、盗難件数が多い地域では、なおさら銅線ケーブルなどの盗難が補償の対象外になる可能性も低くないです。保険加入は努力義務ながら、昨今の犯罪動向や被害額をみる限り、盗難への補償がある保険に入っておく方が安心ではないでしょうか。
太陽光発電のケーブル盗難対策はどうやれば良い?
盗難被害を極力防ぐためには、所有する太陽光発電所にしっかり防犯対策を施しておく必要があります。太陽光発電協会は、「太陽光発電設備のケーブル盗難対応について」と題した注意喚起を行っており、そこでは以下の点に配慮するよう呼びかけています。
①露出配線はなるべく避ける
②地下埋設配管とハンドホールのロック設計
③フェンス・柵・鍵など防犯対策強化、草刈により所内が外から見える
④セキュリティーシステムの導入、侵入アラートシステムによる夜間監視
⑤侵入者に対して光と音で威嚇する設備や記録可能な監視カメラの設置
⑥監視システムのケーブル管路の保護
窃盗グループは、外観を下見するだけで、侵入しやすいか否か、警備会社と契約しているか否か、すぐに判別することができるといいます。防犯カメラの電源を切断したり、カメラの死角から侵入するなど、手口がどんどん巧妙かつ悪質になっています。そこで、盗難を企てる人たちを寄せ付けないため、さらなる厳重な対策が求められます。
●警報機や警備会社を活用して緊急駆け付け対応
●近隣住民への協力要請
●盗難を補償する保険に加入
費用はかかりますが、警備会社と契約して24時間監視員を常駐させることもできます。銅線ケーブルを盗んだ犯人が換金するために利用する金属リサイクル業者は、本人確認の強化や取り引き内容の帳簿への記載など、業者自体が犯罪の温床とならぬよう、疑いの目を持つことも必要でしょう。
まとめ
太陽光発電の設置件数を増加させる中、盗難事件が増えていることは非常に悲しい話です。とはいえ、銅線ケーブルは発電に欠かせないアイテムですし、太陽光発電の普及拡大をやめるわけにもいきません。そういった犯罪を身近なものだと割り切って、各々の事業者が万全の対策を講じていくしかないのです。
フェンスの強化や監視カメラ、警報機の設置など、初期費用がかさんでしまうのは否めませんが、数百万円単位の被害に比べれば大した額ではないです。太陽光発電の特性上、空き地や山間部など、人口が少ない場所が発電に適するという場合が多く、その隙を窃盗グループは狙っています。被害に遭ってから後悔しても遅いです。保険の加入を検討し、太陽光発電所を長期的に運営できるよう準備しておきましょう。