太陽光発電と水素

太陽光発電で水素を製造?コストやメリットについて解説

政府が掲げた2050年のカーボンニュートラル達成、および持続可能な社会を実現するためには、化石燃料に依存したエネルギー供給体制を大きく変革しなければなりません。この壮大な目標を成し遂げるために、再生可能エネルギーが普及しているのは多くの方が認識しているでしょう。ただし、未来のエネルギー源になると期待されているものが他にもあります。それが”グリーン水素”です。
水素をエネルギーとして利用する理由は、燃焼してもCO2を排出しないことが挙げられます。従来の石油や石炭は、CO2を排出して地球環境に悪影響を及ぼしています。だからこそ世界各国が脱炭素社会を目指しているのです。水素は燃焼すると酸素と結びついて水になりますが、その化学反応で生じる電気エネルギーを、様々な産業が活用しようと試行錯誤を繰り返しています。
そして昨今、太陽光発電で水素を製造する実証実験がなされており、水素への注目度はますます高まっています。今回の記事では、世界が注目する日本のグリーン水素製造技術に関して解説していきましょう。

太陽光発電で水素製造する仕組み

そもそも、どのような仕組みで太陽光発電から水素を製造していくのでしょうか。大まかな流れは次の通りとなります。

①太陽光発電システムによって生み出された電力を水素製造装置に供給
②水素エネルギー製造に欠かせない水を水素製造装置に供給
③①と②の供給量をエネルギーマネジメントシステムで管理・制御
④水素製造装置で製造された水素を貯蔵タンクに保管
⑤必要時に車輌などで運搬したり、燃料電池として活用

太陽光発電の余剰電力を利用すれば、実質安い電気で大量の水素を製造することが可能になります。貯蔵タンクに溜めておき、必要に応じて電力に変換するのです。
燃料電池の仕組みは、水素製造の「電解法」を逆にしたものです。つまり、電解質を挟んで、燃料極側に水素、空気極側に酸素を送り込むと、化学反応が起きて水と電気が発生します。日中に太陽光発電が稼働して水素を製造・貯蔵しておけば、日夜問わず水素エネルギーを利用できるわけです。

水素は製造工程によって次の3つに分類されます。グレー水素は、化石資源などから水素を取り出し、CO2を大気中に排出する方法です。ブルー水素は、同じく化石資源から水素を取り出しますが、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)を用いて大部分を大気中に放出しない方法です。グリーン水素は、CO2を発生させない工程で製造された水素を意味します。日本は水素社会の実現において、100%グリーン水素で賄うことを目標にしているため、太陽光発電など再生可能エネルギーなどを用いることが必須となるのです。

太陽光発電で水素製造するのは効率的?

太陽光発電から水素を製造する研究は、これまでも研究されてきました。一般的だった光触媒を用いる製造方法だと、エネルギー変換効率は10%未満と高くありません。そのため、あまり話題にもならなかったのです。
しかしながら、宮崎大学が中心となって進められている研究では、集光型太陽電池を用いて、水素へのエネルギー変換効率24.4%を屋外に設置した太陽光発電システムで達成しました。集光型太陽電池は、レンズで集めた強い光のもとに高品質な半導体を置いて発電する最新のシステムです。15cm程度のレンズから、5mmほどのセルに光エネルギーを集めるので、太陽光パネルの設置スペースが大きく縮小されます。
太陽光から電気への発電効率が31%、さらに水電気分解装置との電気的接続法を改良して、電気分解による水素エネルギー伝達効率を79%まで向上させました。0.31×0.79×100=24.4%という計算式です。水素を燃料電池として使用する際も、燃料電池のエネルギー変換効率は83%と非常に高く、この数値はガソリンエンジンの変換効率40%の約2倍に相当します。

同大学の研究者によれば、将来的に、集光型太陽電池の発電効率は 35%まで向上すると見込んでいるそうです。水電気分解装置における水素へのエネルギー伝達効率80%に上昇できれば、太陽光発電から水素へのエネルギー変換効率は28%に達すると期待されています。この製造工程が実現して一般社会に普及すれば、日本国内のエネルギー供給網は劇的に変化すること間違いなしです。

太陽光発電で水素製造するコストについて

水素製造に関して最も問題となるのがコスト面です。前述した集光型太陽電池は、現在一般的に普及しているシリコン型の太陽光パネルより面積が500分の1になる反面、価格が最大50倍になるともいわれています。住宅用太陽光発電の初期費用が100万円と仮定して、いくら高性能だからといって5000万円の集光型太陽電池を自宅に導入する方は、ほとんどいないですよね。
そもそも、国内では水素エネルギーの普及がまだまだ進んでいないため、水素を利用するための技術が不十分であり、供給インフラの整備にも課題を残しています。現状のままでは、産業用の水素を大量製造するために莫大なコストがかかると考えられます。
海外に目を向けると、米国エネルギー省は水素コスト1kgあたり4ドル以下にコスト低減することを目標に掲げています。この数字を達成するには、太陽光発電システム、水電気分解装置、および貯蔵・運搬にいたるまであらゆる費用が低下しないと実現は難しいかもしれません。

まとめ

新たなエネルギー源として、水素は世界的に動向が注目されています。一部のアナリストによれば、経済規模は2050年には2兆5000億ドルに拡大するとのことです。さらに、世界のエネルギーの4分の1が水素になるという観測も出ており、技術革新が進展することは疑う余地がありません。研究段階では、水素を安定的に製造して貯蔵する仕組みは構築されつつありますが、私たちの生活で水素を日常的に使用するようになるには解決すべき課題も多いのが現状です。太陽光発電によって、CO2排出量ゼロの水素が作ることが可能なのは、既に証明されました。今後は、どのようにコストを下げ、世界的に普及されていくかに焦点を当てることになるでしょう。


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