コラム

中国のEVはどんな車?中国の人気のEVについて解説

中国のEV

EV(電気自動車)の開発競争が世界各国の自動車関連企業で熾烈を極めていますが、EV市場で世界トップに立っているのが中国です。中国は、政府が脱炭素化へ舵を切っていることもあり、EVが急速に普及しています。新興企業が次々と台頭して、新たなテクノロジーを生み出しており、世界中から関心を集めているのです。
この記事では、中国のEV業界を牽引するBYD、そして大手メーカーで“御三家”と称される3つの企業を中心に、現在の市場動向を解説していきたいと思います。

中国の代表的なEVメーカー

中国には、大小あわせると300社以上のEV関連メーカーがあるといわれています。その中から、業界で特に強い勢力を持つ“御三家”を紹介しましょう。
これらのメーカーは、2010年代中盤に創業し、2020年以降業績を大きく拡大中です。世界的有名IT企業が大株主に名を連ねるなど、不思議と幾つかの共通点が存在しています。

①理想汽車(Li Auto)
理想汽車は、自動車メーカーとしては異例の、1車種のみを市場に投入してシェアを伸ばしている会社です。研究開発費を集中させ、生産効率を高めるメリットがあり、御三家の中で最も早く量産体制を構築することができました。
同社の特徴は、「レンジエクステンダー」を採用したことです。エンジンモーターに取り付けるガソリン式の発電装置で、バッテリー残量が一定水準以下になるとガソリンで発電する性能を持っています。この機能のおかげで、航続距離およそ800kmを実現。ライバル社に優位性を誇っています。
2020年に米国の半導体メーカー、エヌビディア(NVIDIA)と提携したことでも注目されました。現在は、自動運転レベル4の実現を目標に研究開発を進めています。

②小鵬汽車(XPeng)
2014年にアリババから出資を受けて創業したEVメーカーです。価格を抑えて大衆車市場に照準を合わせる戦略を取っています。2020年から自社生産に切り替えて、航続距離およそ520kmのSUVタイプや、航続距離およそ700kmのスポーツセダンを市場に投入しました。海外進出を積極的に進めていることから、“中国のテスラキラー”との異名を持っています。
自動運転レベルは2.5、自動駐車アシスト機能,完全音声AIコントロールを標準搭載し、快適な運転をサポートします。車載システム「Xmart OS」により、最新の技術がすべての顧客の車体に反映されるため、購入時期を問わず常にアップデートされていくのが嬉しいですね。

③蔚来汽車(NIO)
同社のEVは、バッテリー交換方式を採用している点が特徴です。これは世界でも唯一無二でしょう。中国全土にバッテリー交換ステーションを展開して、顧客に対してバッテリー無料交換サービスを提供しています。
逐一バッテリーを交換するのは面倒にも思えますが、たった3分で充電済みのバッテリーと交換してくれるため、ストレスはとても小さいはずです。単に車体を販売するだけでなく、顧客へのサービス提供に重きを置くビジネスモデルを目指しています。
実は、蔚来汽車は自動車生産資格を有していません。EVの設計と開発のみを手掛け、委託提携先の会社が生産を行っています。その分、会員限定イベントを開催するなど、顧客の満足度向上を図る施策を多く実施しているのです。

中国のEV・BYDってどんな車?

BYDは中国深圳市に本社を置くメーカーで、創業時はパソコンなどに搭載するバッテリーの製造が主な事業でした。2000年代に自動車産業に参入すると、今では中国のEV市場でトップに躍り出るほどの成長を遂げています。
日本市場にも進出しており、EVバスなどの商用車をはじめ、複数のEV車種を展開しています。2024年現在、3つのタイプを発売していますので、順に紹介しましょう。

まず最初に、SUVの「BYD ATTO 3」を取り上げます。中国皇帝の象徴であるドラゴンをモチーフにしたデザインが目を惹き、内装は“フィットネスジム×音楽”をコンセプトにしました。航続距離は470km、価格は440万円ですが、購入時に国から85万円の補助金が支給されるため、かなりおトクに手に入れることが可能です。

次に、コンパクトEVの「BYD DOLPHIN」です。スタンダードモデルとロングレンジモデルの2タイプがあり、前者は航続距離400km、価格は363万円。後者は航続距離476km、価格が407万円です。購入時に国から65万円の補助金が支給されます。

スポーツセダンタイプの「BYD SEAL」は2024年6月頃に販売予定の新型車です。航続距離は後輪駆動タイプで640km、四輪駆動タイプは575kmとなっています。中国本土では20~30代の男性に人気のタイプで、日本でも期待が高まっています。

上記全車種に、BYDが独自開発した「ブレードバッテリー」を採用。リン酸鉄リチウムイオン電池を使用し、長くて薄い角形缶の形状です。結晶構造が強固で熱安定性が高く、効率よく敷き詰めることができ、安全性が非常に高いのが魅力です。

中国のEV市場まとめ

中国における2023年の自動車販売台数は約3009万台でした。そのうち、EVの販売台数は約669万台で、市場全体に対する比率はおよそ22%です。5台に1台はEVということになります。
EVと聞くと真っ先にテスラ社を思い浮かべ、同社の拠点であるアメリカ市場が大きいと考えるかもしれません。しかし実際のところ、EVの販売比率は中国が圧倒的に高く、文字通り世界最大のEV市場なのです。
どうして中国でこれほどEVが普及しているかというと、政府の強力なバックアップ体制があるからです。補助金制度をはじめ、自動車取得税10%の減免措置も適用されます。

政府は、2035年にすべての新車販売をEVやハイブリッド車にする目標を掲げています。それを実現するために、たとえば北京市ではガソリン車のナンバープレート交付を2ヶ月ごとの抽選方式に変更してしまいました。抽選に当たらないと、ナンバープレートを入手できず運転できません。抽選に外れ続け、数年間待つケースもでています。対照的に、EVに対しては即交付しており、半ば強引にEVを選択させているわけです。

中国のEVメーカーの特徴は、巨大IT企業との提携および自動運転技術の開発に精力を注いでいることです。先ほど紹介した“御三家”も、NIOはテンセント、Xpengはアリババ、Li AutoはTikTokで有名なバイトダンスがそれぞれ出資しています。さらに大手IT企業のバイドゥも、レベル4の実証実験を繰り返し行い、自動運転レベル4のシステムを搭載したタクシーを普及させる計画です。

このように、中国のEV市場は、自動車メーカーというより、IT企業が牽引しているといっても過言ではありません。北京や上海など大都市圏は渋滞が頻発し、車中で過ごす時間が長くなります。ユーザーは車内を生活空間の一つと考え、快適に過ごしたいという願望を強く持っています。だからこそ、各企業が自動運転技術の進化に尽力し、最新のテクノロジーを搭載して、多くの顧客を惹き付けているのです。

まとめ

EVは一昔前まで、バッテリー容量が小さく航続距離が短いうえ、充電スタンドも少ないので不便だといわれてきました。現状、日本ではまだまだガソリン車が主流であり、EVの普及率は極めて小さいです。一方で中国は、政府と大手企業が莫大な投資を実行して、前述の通り普及度を高めています。
政策がだいぶ強行的ではあるものの、従来のガソリン車主流の社会から脱却するには、これぐらい思い切った改革を断行する必要があるともいえます。EV市場において、日本は中国に差をつけられてしまいました。数年後には、中国メーカーのEVが世界各国で走行する光景が当たり前になっているかもしれません。