太陽光発電とインボイス制度

2023年に始まるインボイス制度。太陽光発電に与える影響はどれくらい?

皆さんは「インボイス制度」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。簡潔に言うと消費税に関する制度なのですが、2023年10月から新たに適用されることが決定しました。
インボイス制度によって、仕入税額控除の要件が変更されるなど、税制上の仕組みが大きく変わります。太陽光発電事業者のみならず、副業や投資として売電収入を得ている個人事業主の方にも影響が及ぶ可能性があります。
これまでは、売電収入が年間1,000万円未満の事業主は、“免税事業者”として扱われ、消費税を納める義務がなかったのです。電力会社から支払われる買取価格に消費税が上乗せされた額を、利益として見込んでいた方も多いでしょう。ところが、インボイス制度が適用されると、それが出来なくなります。まだまだ世間一般的にインボイス制度が認識されていないことも踏まえ、ここでは制度の詳細な内容と太陽光発電に与える影響について説明していきます。

そもそもインボイス制度とは?

2022年6月、資源エネルギー庁から「インボイス制度の導入に伴うFIT制度運用上の対応について」という資料が公表されました。そこで、インボイス制度について次のように記載されています。なお、インボイス制度は、税法上では「適格請求書等保存方式」といいます。

●2023年10月1日より複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式を導入する。
●インボイス制度の下では、税務署に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となる。
●インボイス発行事業者には、インボイスを交付することが困難な一定の場合を除き、取引の相手方の求めに応じて、インボイスを交付する義務及び交付したインボイスの写しを保存する義務が課される。

通常、消費者から預かった消費税は、事業者が納付します。コンビニエンスストアを思い浮かべてみてください。私たちは、会計の時に商品の値段に加えて消費税を支払っています。その消費税を国に納める義務を負うのはコンビニです。でも全ての消費税額を納めるわけではありません。
コンビニは、商品を仕入れる際、食品や飲料企業など別の事業者に消費税を支払っています。商品を入荷する時も販売する時も消費税を納めることになり、二重課税となりかねません。よって、課税売上額にかかる消費税から課税仕入れ額にかかる消費税分を差し引いて納付額を算出するわけです。この仕組みを「仕入税額控除」といいます。インボイス制度が適用されると、仕入税額控除するための要件が変更されるのです。

2023年9月までは、「区分記載請求書」とよばれる、いくつかの必要な事項が記載されている仕入れ先業者からの請求書を保存していれば、仕入税額控除が認められました。ところがインボイス制度が始まると、「適格請求書」でないと仕入れ先業者に支払った税額分を証明できません。
区分記載請求書から変更となる部分は、適格請求書発行事業者の登録番号、税率ごとの合計金額と適用税率・消費税額を正確に記載する点です。
資源エネルギー庁の資料にも、「適格請求書(インボイス)→売り手が、買い手に対し、正確な適用税率や消費税額等を伝える手段」と説明されています。
今まで免税事業者だった事業主の方は、適格請求書発行事業者に該当しないため、インボイスを発行することができないのです。先程の例でいうと、コンビニは免税事業者から商品を仕入れた場合、仕入税額控除が認められず、消費者が支払った消費税額を全て納付しなければなりません。
そうなるとコンビニが苦しい状態になるのは明らかですが、太陽光発電に置き換えると、コンビニの立場にあたるのが、売電事業主から電気を買い取る電力会社です。電力会社は、FIT制度(固定価格買取制度)により、一定期間固定価格で電気を買う義務を負います。売電する方が免税事業者の場合、電力会社は消費税納付額が増えることになってしまい、損をすることになる恐れがあるわけです。

東京電力におけるインボイス制度の取り扱いについて

売電事業主にとっても電力会社にとっても、インボイス制度の適用は大きな影響を及ぼします。これに関して、2022年7月時点で東京電力及び関連会社は、2023年10月以降のインボイス制度適用後の取り扱いについて正式発表はなされていません。ただし、資源エネルギー庁は既存の事業者に対する扱いとして、一つの候補案を提示しています。
「課税事業者がインボイス発行事業者として登録を行うことを求めた上で、課税事業者に対してインボイス発行事業者としての登録に係る周知徹底に取り組むことを前提に、インボイスが発行されない取引については、当該取引による買取義務者の消費税負担分を制度的に措置することとしてはどうか」
この文章を読む限り、インボイス発行に強制力はなく、免税事業者からの売電については国が一定税額を免除する可能性が示唆されています。東京電力と政府機関は密接な関係にあるため、基本的には国が示す方針に東京電力も従うと思われます。

それ以外の電力会社のインボイス制度の取り扱いについて

九州電力、中国電力、関西電力などの大手電力会社は、「インボイス制度における取り扱いについて」と題した文面を2022年6月、一斉に公表しました。

「2023年10月1日から消費税の仕入れ税額控除の方式としてインボイス制度が導入されるため、需給調整市場においても、適格請求書発行事業者の登録を取引会員資格要件として定める予定ですので、お知らせいたします。このため、2023年4月1日以降に取引会員資格のお申込みをいただく際には適格請求書発行事業者の登録番号をご提出いただきます。また、2023年3月31日までに取引会員資格のお申込みを済ませている事業者さまに対する登録番号の確認方法につきましては、別途周知いたします。」

これを見ると、少なくとも2023年4月以降に太陽光発電を開始する事業主は、適格請求書発行事業者に認定される、つまり課税事業者に限定するかもしれません。既に売電を開始している方も、電力会社からのお知らせを注視しながら、インボイス制度に向けて準備が必要かと思われます。

まとめ

インボイス制度の申請受付は、2021年10月から既に始まっています。2023年10月までに適格請求書発行事業者の登録申請書を国税庁へ提出すれば、10月1日から仕入税額控除などを受けることができます。これまで免税事業者として売電を行ってきた方が、2023年10月からいきなり売電の機会を失う、もしくは買い取り金額の支払いが止まる、といった事態はFIT制度をふまえると想定しづらいです。とはいえ、「電気を買い取りはするが、課税事業者に比べて安い買取価格にする」「免税事業者の電力買取を積極的に行わなくなる」といった懸念も囁かれています。状況次第では免税事業者が課税事業者となってインボイス対応を行うべきケースも頭に入れておくべきです。課税事業者へ移行することを前提に、消費税負担を軽減するため簡易課税制度を利用することも検討しておくとよいでしょう。


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