コラム

マツダの代表的なEVについて解説

マツダは、日本と北米市場を中心に事業を展開しており、年間販売台数120万台ほどの自動車メーカーです。同社は、2023年6月、営業部門出身の毛籠勝弘氏が社長に就任しました。生産や技術部門以外の社員がトップの座に就くのは10年ぶりのことです。新しい経営体制に移行したことにより、将来に向けた変革が期待されています。
今後の事業展開について新社長は、「バッテリーEVにおいて、フロントランナーにはならない」と自身の考えを語っています。EV業界で先陣を切る意思がないというのは、社長の意気込みとして少し引っ掛かりますよね。果たしてマツダは、EVについてどのような戦略を立てているのでしょうか。この記事で紹介していきます。

マツダのEV戦略

2023年末、マツダが電動化戦略およびグローバルEV展開のロードマップに関する説明会を実施しました。まず、電動化戦略の大きな目標として、2030年時点でグローバルにおけるEV比率25~40%を目指すことを掲げています。従来の25%程度から数字を引き上げたのは、昨今の自動車市場を鑑みて、EVシフトが中国・欧米を中心に加速している状況をうけての判断です。
ビジョンを実現する過程で、技術革新、サプライチェーンの構築、パートナーシップ強化など、多くの課題があります。電動化への移行を段階的に進めていくため、2030年までの期間を3つのフェーズに分け、それぞれの期間における計画を公表しています。

●フェーズ1(2022~2024年)
本格的な電動化時代に向けた開発・生産領域、技術開発の強化に取り組みます。財務基盤を強化しつつ、原価低減活動やサプライチェーン最適化によって事業構造を強靭化します。利益を確保できるラージPHEVを中心に据えながら、米国工場・電動化開発へ積極的に投資する方針です。この期間は、マツダにとって重要な転換点です。次のフェーズで本格的にEVに軸足を移すため、電動化戦略の基盤を構築します。

●フェーズ2(2025~2027年)
電動化へのトランジション期間と位置付けます。引き続き内燃エンジン車で収益をあげていき、本格的な電動化時代への備えに注力します。世界最大のEV市場となった中国でEV専用車の投入を予定し、海外マーケットで存在感を高めて、販売エリアの拡大を狙っているのです。EVを生産する上で欠かせない電池の調達先に目途をつけるのと同時に、電池技術の自社生産技術開発も継続する意向です。

●フェーズ3(2028~2030年)
2030年を最終年とするこのフェーズでは、バッテリーEVを本格的に投入していきます。市場需要状況や規制と政策、技術進化を見定めながら、電池生産への投資も視野に入れます。新しいEVモデルの開発を進め、市場の需要に応えて、新たな価値を提供することを目指します。そして、グローバル販売台数に対するEV比率を25~40%に向上させ、電動化への道のりを切り開いていく計画です。

EVに必要なバッテリーについて、マツダはパナソニックエナジーと車載用円筒形リチウムイオン電池の供給に向けた合意書を2024年3月に締結しました。北米を最重要市場とするマツダにとって、現地での電池調達は大きな要素です。

3つのフェーズで段階的にEVシフトを図るマツダですが、毛籠勝弘社長は次のような発言を残しています。「バッテリーEVへのシフトについては、フロントランナーにはならない。バッテリーEVへのシフトというのは、取引先を含めてサプライチェーンを大きく作り替えていくことだ。サプライヤーと一緒にこの波を越えていくには、一定の時間軸の中で取り組んでいきたい。2030年までは、“意思を持ったフォロワー”という位置づけである」

EVの研究開発には莫大な時間とコストを要します。一長一短で進展するものではありません。新しい技術を蓄積して、自社の技術開発を進歩させ、電動化へのシフトを中長期的なスパンで進めていくべきだという意向です。中堅メーカーのマツダがEV市場で勝ち残るためには、こうした戦略が必要だと社長は考えているのです。

マツダの電気自動車のラインナップについて解説

マツダが2023年までに市場に投入した電気自動車のラインナップは、「CX-90 PHEV」「CX-60 PHEV」「MX-30 EV」「MX-30 REV」です。このうち、“純EV”と称されるBEV(バッテリー式電気自動車)は「MX-30 EV」の1車種のみです。
現時点では、PHEV(プラグインハイブリッド車)に偏っていますが、上記で紹介したフェーズ3にて、バッテリーEVの新車種を投入予定となっています。

新型ラージ商品群として世界に展開するCXシリーズは、いずれも大型のクロスオーバーSUVタイプです。“CX-60”“CX-70”“CX-80”“CX-90”の4車種があり、車体サイズが最も大きいのがCX-90です。そのCXシリーズから新たに誕生したのが、ファミリーを意識した3列シートクロスオーバーとなる「CX-90 PHEV」です。

航続距離26マイル(41.6km)以内であれば、電動駆動で走行することができます。それ以上の距離を走行する場合は、内燃機関とのハイブリッドモードに切り替わります。短中距離のドライブに適しており、安全で快適な時間を過ごせることでしょう。CX-90 PHEVは、米国グッドハウスキーピング誌の「2024年ファミリー・トラベル・アワード」受賞モデルに選出されるほど人気を博しています。

マツダのEV・mx-30について仕様や価格を徹底紹介

マツダが2020年に初の量産型EVとして販売開始した車種が、「MX-30」です。ボディサイズ(全長×全幅)は、4395mm×1795mm。ホイールベースは2655mmです。「CX-30」とサイズ感は同じながら、車体の形状は大きく異なり、マツダの象徴“シグネチャーウィング”もありません。
電気自動車なのでエンジンを搭載しておらず、フロントグリルは非常に小さいです。そのかわり、マツダのエンブレムが通常の内燃エンジン車よりも大きく、一際目立っています。

「MX-30」の航続距離は256km、価格は4,510,000円~です。一方、同社が世界に誇る技術のロータリーエンジンを搭載した「MX-30 REV」は、4,235,000円~と純EVより安い価格設定となっています。「MX-30 REV」はプラグインハイブリッドの車種で、2012年に一度生産を終了したロータリーエンジンをアップデートしました。次世代型の発電するロータリーエンジンとして生まれ変わり、さらなる低燃費かつ軽量化を実現しています。駆動用バッテリーの総容量は17.8kWh、航続距離は107kmです。50Lの燃料タンクを備えているため、長距離走行の際にはハイブリッド車として活躍してくれるはずです。

まとめ

マツダは、内燃エンジン車が売上の中心を担っており、持続的な改良を続けて安定した収益の確保を目指します。電気自動車の研究・生産開発も並行して進展させ、2030年にEV比率を最大40%まで高めることが今後の目標となります。
中堅メーカーとして、中国企業などによる過当競争に参入せず、先を見据えた戦略を掲げています。現段階ではコスト面や航続距離など課題も残されており、あえて今フロントランナーになる必要はないというわけです。それよりも、築き上げた企業価値を守りながら、本格的なEV時代の到来の際にしっかり勝負する構えなのです。