コラム

宇宙太陽光発電とはどんな仕組み?概要や将来の見通しを解説

太陽光発電はとても便利で環境に優しいエネルギー源ですが、夜間や悪天候の日は太陽光が当たらず、発電量が減少してしまいます。もし24時間365日発電し続けることができるなら、太陽光発電はもっと普及するはずですよね。
実は今、宇宙に巨大な太陽光パネルを設置して莫大な電気エネルギーを生み出そうという計画が進行中なのです。この話を聞くと、アニメ『機動戦士ガンダム00』を思い浮かべる方がいるかもしれません。同作では、全世界のエネルギー需要を多数の衛星からなる巨大発電所が担うという、まさにSFらしい設定が描かれていました。

『機動戦士ガンダム00』では2300年頃に実現するというストーリーでしたが、そんな遠い未来ではなく、なんと21世紀中に現実となる可能性が出てきました。“究極の再エネ”との呼び声高い宇宙太陽光発電は、一体どんな仕組みなのでしょうか。

宇宙太陽光発電の現状

宇宙空間で発電を行うという構想の歴史は古く、なんと1968年にアメリカのPeter Glaser博士が初めて宇宙太陽光発電を提唱しました。長きにわたる研究が行われても、実用化への道のりは遠く、諸外国で計画は頓挫します。日本だけが地道な研究開発を継続しており、世界の最先端を走っているのです。
ところが、2010年代に再び世界各国が多額の研究費を投じて、開発プロジェクトが立ち上がっています。宇宙ビジネスの市場規模が大きいアメリカでは、空軍研究所を中心に約100億円を投じて、宇宙太陽光発電の本格的なプロジェクトを始動しました。カリフォルニア工科大学は、実験衛星を打ち上げ、変換したエネルギーをアンテナから狙った方向に無線伝送できることを確認しています。地上施設でエネルギーの検出にも成功し、引き続き研究・調査を進めます。

中国も急ピッチで研究開発を実施中です。2021年、研究所を重慶に建設し、宇宙空間に発電衛星を打ち上げる計画だと伝えられています。欧州宇宙機関は2022年に宇宙太陽光発電の実現可能性を調査するプロジェクト「SOLARIS(ソラリス)」を始動。宇宙関連のビジネスを展開する民間企業2社と契約して、両社の提案を聞きながら分析を進めています。約2年半かけて必要な技術および採算性などを検証する予定で、研究予算は約100億円です。

長年研究を続けてきた日本も、もちろん海外勢に引けを取っていません。JAXAと文部科学省が新型宇宙ステーション補給機に太陽光パネルを取り付けて打ち上げるほか、上空のドローンに無線伝送する実験も行いました。京都大学発のベンチャー企業「Space Power Technologies」に関西電力が出資するなど、有望なスタートアップも台頭しています。また、NTTは持続可能な社会の実現に貢献するため、無線伝送されたエネルギーを地上で電力に変換する技術の研究などを行っています。

宇宙太陽光発電の仕組み

そもそも宇宙太陽光発電とは、どのような仕組みになっているのか、ここで説明しましょう。
宇宙太陽光発電は、上空およそ3万6000kmの宇宙空間に、太陽光パネルを搭載した静止衛星を配置して、発電を行います。簡潔に言えば、大規模発電所を宇宙に建設するイメージです。太陽光パネルの大きさは一辺が2km~3km、重さが1万トン以上に及ぶとされ、敷地面積などの事情を考慮する必要がない宇宙ならではの、超巨大な発電所になります。

宇宙空間なら、太陽光がほぼ24時間照射し続けるため、発電量が安定かつ増大することが想定されます。となると次に気になるのは、発電した電力をどうやって地球に送るのか?ですよね。
地球上の受電アンテナに送電する方法として、主に2つの方法が挙げられています。

①マイクロ波(=気象観測のレーダーなどに使われる電磁波)に変換
②レーザー光(=CDの読み取りなどに使われる電磁波)に変換

昨今では、マイクロ波を採用するのが一般的となっているため、ここからはマイクロ波で無線伝送する流れを見ていきましょう。太陽光パネルを搭載した静止衛星にて、発電で作られた電力を半導体でマイクロ波に変換します。地上には、直径2~4kmという巨大な受電アンテナがパイロット信号を発しています。受電装置には整流回路が内蔵されており、宇宙から受け取ったマイクロ波を直流電力に変換します。私たちの家庭に送られてくる電気は交流電力ですので、直流電流をさらに交流電力に変換したうえで、送電網に伝送するのです。

宇宙太陽光発電の実用化はいつくらい?

究極の再生可能エネルギーである宇宙太陽光発電について、日本政府は2050年までの実用化を目指しています。その目標を達成するため、経済産業省では現在、無線送受電技術の高効率化に向けた研究開発を進行中です。2030年代には、一辺30m以上の太陽光パネルを宇宙空間に配置する実証実験計画もあります。

ただし、実用化にむけて、まだまだ多くの課題が残っているのも事実です。皆さんも想像できるかと思いますが、宇宙空間に巨大な太陽光発電設備を建設するには、莫大な費用がかかります。一辺2~4kmの太陽光パネルを地上からそのまま打ち上げることは不可能とされ、細分化したパネルを宇宙空間で組み立てることになるでしょう。
現時点では、ロケットを一回打ち上げるだけでも100億円程度かかるため、部品を運ぶだけで数千億円以上のコストです。宇宙空間で作業するロボットやシステムの開発費用も含めると、兆円単位の予算が必要で、経済性に見合うものなのかと未だに疑問の声が上がるのも頷けます。

また、マイクロ波に変換して上空3万6,000kmから地上に送電する技術開発も、そう簡単なことではないです。離れた場所からマイクロ波で送電する実証実験は行われていますが、距離にしてまだ1km程度です。遥か彼方から送電されるエネルギーを地上でちゃんと受電できるのか、さらなる技術革新が求められます。

まとめ

過去に何度も構想が描かれるも挫折し、SF漫画だけの夢物語と思われていた宇宙太陽光発電が、現実になるかもしれない時代がやってきました。ロケット打ち上げコストの低下も追い風となって、世界各国が実現を目指し動き始めています。
もし本当に成功すれば、原子力発電一基分の発電量に匹敵すると想定され、再生可能エネルギーの普及が進展するのは間違いないです。経済産業省を筆頭に日本政府も、宇宙開発において世界をリードする存在になるべく、予算を組んで研究開発を支援しています。2050年には、宇宙空間に巨大な太陽光パネルが浮かぶ光景を見ることができるのか、未来がとても楽しみですね。