コラム

トヨタの代表的なEVについて解説

トヨタ自動車といえば、乗用車の販売台数世界トップに君臨するグローバル企業です。2023年度の営業利益が、国内企業として初めて5兆円を突破したことも、大きな話題となりました。まさに日本が世界に誇る大企業の一つですが、EV(電気自動車)に関しては、市場シェアをあまり獲得できていません。海外の競合企業と比較して伸び悩んでおり、「出遅れ」「脱落」という烙印を押される状況になっているのです。
今回は、トヨタ自動車が現在販売しているEV、そして今後の戦略や動向について解説していきましょう。

トヨタの電気自動車のラインナップについて解説

トヨタは、EV(電気自動車)というカテゴリーの中でも、PHEV・FCEV・BEVの3種類を揃えていることが特徴です。これら3種類の違いについて、まず簡単に説明します。

●PHEV(プラグインハイブリッド車)
従来のガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせた自動車です。充電スタンドで内蔵のバッテリーを充電することができます。

●FCEV(燃料電池自動車)
水素と酸素で電気を生み出し、その電力でモーターを動かす自動車です。ガソリンも電源も不要であり、水素が燃料となります。

●BEV(バッテリー式電気自動車)
バッテリーの電力だけで走行する自動車です。自宅やEV充電スタンドの外部電源から電力を供給します。

皆さんが一般的に“EV”と聞いてイメージするのは、BEVタイプかと思います。2024年現在、トヨタ自動車が市場に投入した電気自動車は、「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」「C+pod(シーポッド)」の2車種です。
bZ4X(ビーズィーフォーエックス)はSUVタイプのBEVで、前輪駆動と四輪駆動の2つのモデルがあります。「CO2の排出量ゼロを超えた価値を届けるために、乗る人全員が楽しい時間や空間を共有できるクルマ」とコンセプトにしており、環境性能に優れていることはもちろん、航続距離が電気自動車の中では長いです。長距離移動が多い方や、ドライブ好きな方にもお勧めできます。オプションでソーラー充電システムを付けると、太陽光発電によって充電して走行するため、さらに環境負荷が小さくなるはずです。

「C+pod(シーポッド)」は、2人乗りという珍しい仕様の小型車です。リース専用車となっています。とてもコンパクトなので小回りが利き、運転や駐車がしやすいです。最高速度60km/hのため、高速道路を走行することはできません。航続距離は約150kmと短いですが、日常生活で使いやすく、セカンドカーとして選ぶ方も多いようです。

トヨタのEV戦略について解説

トヨタ自動車のEV販売戦略としてまず目につくのは、いわゆる純EVだけでなく、ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車・燃料電池自動車と幅広いラインナップがあることです。2024年時点では、同社のハイブリッド車が世界的に人気が高く販売台数も好調なため、引き続き収益を伸ばす役割を果たすでしょう。ただし、2020年代後半にかけて、電気自動車(BEV)の売上を増加させる見通しを立てています。

中長期的な目標として、2030年までに30車種のバッテリーEVを展開し、グローバル販売台数年間350万台を目指しています。一般大衆向けの乗用車だけでなく、商用車などフルラインナップを揃え、幅広い需要に応じる方針です。
その実現に向けて、まずは2026年までに新モデル10車種を投入し、年間の販売台数150万台を目指します。2026年に発売する電気自動車に、新たなEV専用電子プラットフォームを搭載する予定で、車載基本ソフトと組み合わせ、EVの性能を飛躍的に向上させる計画です。
同社の佐藤恒治社長は、「EVを取り巻くサプライチェーンやものづくりの在り方、販売までを含めた一気通貫のビジネスモデルに対して、EVに適した構造改革をしていく必要がある」と語っており、関連会社含め万全の生産体制を構築して、一気に攻勢に出る構えです。また、海外でのシェア拡大も見込んでおり、世界最大のEV市場である中国では、専用モデルを用意します。中国の大手EVメーカーのBYDと提携して合弁企業を設立。EVセダン「bZ3」を投入しました。

「bZ3」の開発リーダーを務めたのは、トヨタ自動車から現地合弁会社に出向して最高技術責任者に就いた加藤武郎氏です。同氏が、国内に復帰して、EV事業の専任組織「BEVファクトリー」に就任しました。中国で得た知見や最新鋭の技術を、今後開発するEVに活かし、海外での販売台数増加に貢献すると期待されます。

トヨタのEVは世界的に見ると出遅れている?

ガソリン車やハイブリッド車では世界各国で高いシェアを持つトヨタ自動車ですが、EVに関しては苦戦を強いられています。2024年度のEV年間販売台数は約17万台を見込んでいますが、2026年に年間150万台という目標とは大きな乖離があります。5年前の2019年はほぼゼロでした。そこから17万台増加させるとはいえ、厳しい状態です。対照的にハイブリッド車は、この5年で販売台数を約260万台伸ばす見込みです。比較するといかにEVの売上が伸びていないかが分かります。

こういった状況から、トヨタ自動車はEV市場で「出遅れた」「脱落した」と痛烈に批判する声も多く見られます。ただし、同社が単純に辛酸をなめていたわけではありません。現在のEVは、リチウムイオンバッテリーを搭載した車種が主流です。バッテリーはEVの根幹を担う部分ですが、リチウム電池はコストが非常に高いというデメリットがあります。EV製造コストに占める電池の割合が20~30%を占め、価格に大きな影響を及ぼすわけです。

中国では、多くのEVメーカーが激しい競争を繰り広げ、販売価格を下げるためコストカットに尽力しています。そのため、経営難に陥り倒産する企業も少なくありません。トヨタ自動車は、純EVに経営資源を集中せず、PHEVやFCEVなど多車種を展開し、過当競争に巻きこまれるのを避けてきたのです。
さらに、同社は次世代の全固体電池を搭載したEVや水素エネルギーを活用する燃料電池自動車の研究開発を進めています。将来的には、リチウム電池よりも全固体電池が普及する可能性も十分あると考えているようです。
実際、中国やアメリカにおいて、EVの売上が鈍化し、在庫が膨らむケースも出てきました。需要が増えず、むしろトヨタ自動車のハイブリッド車の販売台数が伸びる傾向すら見られます。EVの本格的な普及にはまだ時間がかかると判断し、決して出遅れているわけではないと言えるかもしれません。

まとめ

「ジャパンモビリティショー2023」にて、新モデルの電気自動車を世界初公開したトヨタ自動車。“クルマの未来を変えていこう”というテーマと共にお披露目された多くの新型EVを目の当たりにすると、いよいよ世界トップが動き出したことを感じます。
これまでEV市場で存在感が薄く、劣勢にみえた同社も、言わずもがなEVが脱炭素社会の実現に不可欠なものであり、販売台数を伸ばせると確信しています。
自動車産業において長らく日本企業が世界を牽引してきましたが、電気自動車全盛の時代になろうとも、その座を明け渡すつもりはないはずです。近い将来、続々と新たなEVが市場に投入されます。”絶対王者”の本気を見届けましょう。