環境問題、原発問題とも絡んで、自然エネルギーの導入が重要視されているなか、日本の風力発電の状況はどうなっているのでしょうか?本記事では、そんな日本の風力発電の現状について解説していきます。
日本の風力発電の割合はどれくらい?
日本国内のみならず、世界全体で自然エネルギーの積極導入が図られています。日本では第6次エネルギー基本計画のなかで、2030年において年間発電電力量のうち、自然エネルギーの占める割合を36〜38%にまで増やす目標が立てられています。そのため、この目標に向かって順調に進んでいるかどうかが重要なポイントとなっています。
2022年における日本の風力発電量の割合は0.87%であり、残念ながら非常に低い数字となっています。ちなみに、自然エネルギー全体の割合は同じ2022年のデータで24.5%です。先述した36〜38%と比較すると、まだまだ発電量を増やしていく必要があるものの、とりあえず増えている状況と言えます。こうして見ると、風力発電の普及は少々取り残され気味な印象を受けます。
海外の風力発電が盛んな国と比較すると、世界トップのデンマークでは実に58.6%、南米のウルグアイで40.4%、アイルランドでは38%となっています(いずれも2020年のデータ)。これらの数字と比較してしまうと、日本の0.87%という数字はいかにも寂しく見えます。ただし、風力発電の発電量そのものは増加傾向が見られており、今後どれだけ普及していくかがポイントとなるでしょう。
日本の風力発電がなかなか普及しない理由とは?
上記の国々と比べて、どうして日本では風力発電がなかなか普及しないのでしょうか?決して日本が風力発電の導入・普及に対して消極的であるわけではなく、そもそも地形・気候上の問題で難しい面を抱えているのが大きな理由です。
上記のデンマーク、ウルグアイ、アイルランドなどは海に面している国であり、加えて平坦な地形という特徴を持っています。とくに北欧のデンマークは、この点でよく知られています。つまり、風力発電装置を設置しやすい環境にあるのです。
さらに、風力発電の普及が進んでいるヨーロッパの場合は、偏西風の存在が発電に非常に有利に働きます。この風のおかげで風力発電を安定して稼働させることができ、安定した発電量を確保できるのです。
それに対して、日本の地形を見てみましょう。地理で必ず学ぶ、「山が多い」という特徴を持っています。そもそも、風力発電の装置を設置するのに適した平地が少ないわけです。しかも、山が多く起伏に富んだ地形では風が乱れやすく、向きも変わりやすいため、安定した発電が見込みにくいという問題点もあります。さらに、日本では「台風」という非常に厄介な存在もあります。北海道の一部を除けば、日本の国土のほとんどすべてが台風が通過するルート上にあります。強力な台風が風力発電を設置した地域を通過した場合、その衝撃で装置が破損してしまう恐れもあるのです。
平坦な場所のほうが安定した発電を確保しやすいものの、平坦な場所だと台風の被害を直接受けやすい…そんな難しい問題を日本は抱えているわけです。ヨーロッパに比べると降水量も多く、落雷によって風力発電装置が損傷を受ける恐れもあります。原発事故が起こる前に原子力発電が積極的に導入されていた背景には、発電コストを低く抑えられる面がありました。やはりエネルギー問題に関してはコストも重要なポイントとなるため、破損のリスク、修理のコストがかかる風力発電はなかなか導入が難しい面もあるのです。
日本の風力発電の見通し
先ほど海外で風力発電が普及している国について触れた時に書きましたが、海に面している場所のほうが、風が障害物に妨げられないこともあって設置しやすい環境にあります。現在、日本国内に設置されている風力発電施設も海沿いが多く、地図上で見ると、ちょうど日本列島の輪郭をなぞるようにして配置されているのを見ることができます。海に面している都道府県のほとんどすべてに、風力発電が導入されているとも言えるのです。
では、どんな場所で積極的に風力発電が導入されているのでしょうか?設置基数の数では、北海道が280基でトップになっています。しかし、発電量では青森がトップです。例えば、日本でもっとも風力発電の発電量が多い発電所は「ウインドファームつがる」で、121.6MWとなっています。2位は「石狩湾新港洋上風力発電所」(北海道)で、発電量は99.99MVです。
発電量が多い発電所のランキングでは、3位が岩手県の「住田遠野ウインドファーム」、次いで秋田県の「能代港洋上風力発電所」、北海道の「川南ウインドファーム」の順番となっています。こうして見ても、日本のエネルギーは東北・北海道に多くを依存していることがうかがえるでしょう。青森県がトップなのは、強風が吹きやすく、効率よく発電ができる環境にあるからです。東北、北海道のほか、鹿児島、静岡、福島県が発電量の多い県となっています。いずれも海と関わりが深く、ある程度の面積を持った県である点が共通しています。
発電量そのものは増加しており、上記の都道府県を筆頭に、今後積極的に風力発電の設置・普及が進んでいくことが予想されています。とはいえ、やはり立地・気候上の不利があるわけで、これをどう克服していくのかが今後の日本の風力発電の普及における最大のテーマと言えるでしょう。
その鍵を握ると言われているのが洋上風力発電です。その名前の通り、海の上に風力発電装置を設置して発電する方式です。先ほど挙げた発電所の中にも「洋上風力発電所」の名前が見られたように、この洋上風力発電は世界的に拡大傾向を見せているのです。洋上なら平坦ですし、風が障害物に阻害される恐れもなく、非常に効率よく発電することができます。しかも日本は島国ですから、周りを海に囲まれており、設置する場所にも事欠きません。先ほど挙げた地形上の不利を克服し、島国のメリットを活かすことができるわけです。実際に、同じ島国のイギリスではひと足先に、洋上風力発電所の導入が積極的に進められています。
ただし、この洋上風力発電所の国内における設置には、ひとつ大きなハードルがあります。駿河湾に代表されるように、日本周辺の海域は底が深く、設置が難しい面があるのです。これはイギリスとの大きな違いであり、日本近海で風力発電を設置するには、「浮体式」と呼ばれる特殊な技術を用いた方式が求められます。これからこの技術的な問題をどれだけ克服し、コストを下げつつ、設置を進めていくことができるか…ここに日本の風力発電の未来がかかっていると言ってもよいのかもしれません。
まとめ
日本は立地・気候上、どうしても風力発電の設置において不利な環境にあります。ですから、海外と比較するのではなく、あくまで日本の現状に合わせた形で、どれだけ風力発電を導入・普及していくことができるかがポイントとなるでしょう。いずれにせよ、今後さらに自然エネルギーの割合を増やしていくことが急務となっています。さまざまな課題を克服したうえでのさらなる普及を期待したいものです。