農業の経営環境の改善や耕作放棄地の有効利用などの手段として注目されているのがソーラーシェアリングです。すでに成功例もある一方で、失敗するケースも見られます。この成功と失敗の間にはどんな差があるのでしょうか?本記事では、ソーラーシェアリングの失敗例について解説していきます。
そもそもソーラーシェアリングのメリットとは?
ソーラーシェアリングの失敗とは、簡単に言えば「期待していたメリットが得られなかった」ということです。そうなると、そもそもソーラーシェアリングにはどんなメリットがあるのかを知ることが、失敗の原因を探る上で重要なポイントとなってくるでしょう。
よく挙げられるメリットとして、営農をより持続可能な環境にできる点が挙げられます。農地に太陽光発電設備を設置することで、営農に必要な電力を確保することができるのに加え、売電によって収益を得ることができます。つまり、営農コストを削減しつつ、土地の「稼ぐ力」を向上できるわけです。
耕作放棄地を有効に利用する手段としても注目されています。農家の高齢化や担い手不足によって営農の維持ができずに放棄されてしまった土地に、ソーラーシェアリング環境を導入することで、新たに農地として蘇らせることができます。
こうしたメリットをうまく引き出すことができれば成功ですが、できなければ失敗、ソーラーシェアリングにはそんなリスクが潜んでいます。太陽光発電設備を設置する段階でそれなりのコストがかかりますので、それをカバーしつつ、安定した利益を挙げられる環境づくりが求められます。上記のメリットを十分に引き出せないと、ビジネスとして成り立たずに失敗してしまう可能性が高くなるわけです。
ソーラーシェアリングの失敗例〜企業と農家の意見の衝突
ソーラーシェアリングの失敗例としてよく挙げられるのが、地元の農家・住民との協力関係がうまくいかないケースです。太陽光発電設備には、太陽光パネルを設置するための土地が必要です。そもそもソーラーシェアリングが注目されるようになった背景には、平坦な地形が多い農地が太陽光パネルを設置する環境として非常に適している点があります。つまり、できるだけ広い農地を確保したうえで太陽光パネルを設置することで発電力を高め、土地の収益性を高めることができるわけです。そのためには、地元の農家・住民の協力が不可欠です。
成功例では、複数の所有者の協力を得たことで、大規模なソーラーシェアリングの環境を構築できたケースが見られます。個人の農家が自分の土地に太陽光発電設備を設置するだけでは、ソーラーシェアリングのメリットを十分に引き出すのが難しいのです。そのため、地元の農家・住民が一致団結してソーラーシェアリングの構築に乗り出す場合には成功の可能性が高くなりますが、意見が一致せず、反対する人や耕作放棄地の利用を認めない所有者がいる場合には、コストばかりがかかってしまい、失敗してしまうリスクが高くなってしまいます。
ソーラーシェアリングで成功しているケースでは、合同会社を設立するなど、企業として取り組む姿勢が見られます。営農だけでなく、太陽光発電設備の設置や維持なども、企業の業務として行っていくのです。そこで、企業としてソーラーシェアリングを導入しようと思っても、地元の農家や住民と意見が衝突して、思うように計画が進まないという失敗例が見られます。
地元の農家・住民の協力を得ることができても、肝心の営農の部分でうまくいかずに失敗してしまう例も見られます。ソーラーシェアリングでは、あくまでもその土地を農地として使用することが大前提です。しかし、ソーラーシェアリングを導入した後に収穫量や収益が減少してしまった場合、農地として認められなくなってしまう恐れが出てきます。
具体的には、その地域の平均単収(一定面積あたりの収穫量・収入)に比べて収穫量が2割以上減少してしまうと、営農が十分に機能していないと判断され、ソーラーシェアリングの継続が不可能になってしまうのです。例えば、同じ地域でソーラーシェアリングに参加しなかった農家と参加した農家との間で収穫量に差が出てしまった場合、こうした問題が起こりかねません。
ソーラーシェアリングの失敗例〜作物の選択と収穫量の問題
ソーラーシェアリングの失敗リスクとしてさらに挙げられるのが作物の選択です。農地の上方の空間に太陽光パネルを設置するわけですから、当然、農地への日当たりが悪くなります。そのため、太陽光をそれほど必要としない半陰生植物や陰生植物が栽培の対象となります。そのため、その土地の農業の環境によっては、ソーラーシェアリングの導入に合わせて、栽培する作物を変更する必要が出てくることもあります。また、変更する必要がなかったとしても、太陽光パネルの設置によって収穫が減ってしまう可能性もあります。
この点は、太陽光パネルとパネルの間の隙間の設定も深く関わってきます。同じ土地にたくさんのパネルを設置したほうが発電量が多くなるわけですが、その分隙間が少なくなることで太陽光が遮断されてしまい、地面に日差しが注ぐ量が減ってしまいます。一般的に、ソーラーシェアリングでは遮光率が30〜40%の範囲が目安です。それ以上太陽光を遮ってしまうと、肝心の農業に影響を及ぼしかねません。
営農がしっかりできていないと、ソーラーシェアリングそのものの継続ができなくなってしまいます。このさじ加減がとても難しいのです。しっかり発電しつつ、収穫量を確保し、そのためにふさわしい作物を選ぶ…これらを計画段階で決める必要があるわけで、その計画の見通しが甘いと失敗しかねないのです。
なお、遮蔽率が低い環境(30%以下)なら陽性植物を栽培することも可能ですが、ソーラーシェアリング導入の際に必要な農地の一時転用のための審査を受けたときに落ちてしまう可能性もあります。「日差しが遮られる環境で陽生植物の作物を栽培するのはリスクが高い」という理由で、そもそも認められない恐れもあるのです。
もうひとつ、先ほど触れた地元の農家・住民の協力が得られない問題とも密接にかかわってくる部分ですが、太陽光パネルを設置することで、ソーラーシェアリングに参加していない農地の日差しを遮ってしまうケースもあります。その結果、トラブルが生じて継続するのが難しくなってしまう、といった事態も起こり得ます。
まとめ
ソーラーシェアリングには、いくつかの「失敗する理由」とも言うべき注意点があります。やはり必要なのは、地元の農家・住民の理解を得た上で、できるかぎり地域一帯になって取り組むことでしょう。企業としてソーラーシェアリングの事業を行う場合には、地元の住民の間で利害関係が対立しないように、よく話し合った上で計画を立てていく姿勢が欠かせません。
そして、作物の選択も重要です。甘い見通しを避け、あくまで農地として有効活用することを優先しつつ、栽培しやすく、しかも安定した利益を上げやすい作物を選ぶこと、これも成功と失敗とを分ける重要なボーダーラインとなるでしょう。あとは、初期投資をどれぐらいの年数で回収できるのか、安定した黒字経営にすることができるのか、ビジネスの観点からの綿密な検討と準備が求められます。